たくさんの缶詰。【wrwrd！】短編集 (ページ31)

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チョコ=愛。grppn. ページ31

｢……おかしいな。｣

つい漏れてしまった独り言はキッチンに充満しているチョコの匂いと混ざっていく。

作り始めて6時間
出来上がったものは予定していたチョコケーキではなく目の前の黒い物体。

確かに不安な気持ちとともに作っていたのだがちゃんと材料やレシピだって調べたのに。

……これではまた、アイツに渡せないではないか

社会人になった今でも交流のある幼馴染にバレンタインチョコを渡そうと思ったのは十年前からだった。
…一度も成功したことがなく渡したことはないのだけれど。

はぁ、と一つ大きく息をついて片付けを始めた時だった。

ピコンッと聞きなれた通知音を聞き携帯画面を確認する。

『お前の家の前にいる。開けろ。』

脅迫メールみたいな淡白な命令文を送ってくるのは先程の幼馴染しかいない。

なんで急に来たんだと考えながらも寒い外で待たせるのは悪いと思い駆け足で玄関まで向かう。

ドアを開けた途端に冷風と鼻先や耳を寒さで赤くしたグルッペンが入ってきた。

｢…何か作ってたのか｣

私が口を開く前にチョコの匂いに反応した彼が言う。

やばい。

まだ片付けの途中で失敗作はキッチンに置きっぱなし。
つまり彼に見られてしまうではないか。

別に見られてもいいのだが、なんだか恥ずかしいし馬鹿にされる気しかしないのでここはなんとしてでも隠し通したい…！

｢まぁちょっとね！｣

｢Aは毎年チョコ作ってなかったやろ。今年はなんで作ったんだ？｣

スタスタとキッチンへ向うグルッペンが流し目に私を問う。

……これはバレる気がする。

いやもういっそ開き直って正直に話すか？
別に恋愛的な好き、という意味で彼に渡そうとは思ってなかったし平然と言えば話を流してくれる可能性も、

｢Aは誰に渡す予定なんや？｣

考え込む私に威圧を混ぜた言葉を投げかけてきた。

若干無視したのは悪いと思ってるけど別にそこまで怒らなくても……

相手の機嫌をとるためにもやはり正直に話した方がいいか。

｢グルッペンに渡そうかと思ってたんだけど失敗したんだよね。｣

｢それ、はどういう意味だ？｣

｢意味……？いや別になんもないけど。あっ、もしかして告白されるとでも思った？残念だったね。｣

｢では俺はそういう意味でお前にチョコをあげようではないか。｣

私が小馬鹿にすると自信満々な顔で私に持っていた紙袋を突き出してきた。

｢…どーも。｣

私は差し出されたチョコを受け取った。