たくさんの缶詰。【wrwrd！】短編集 (ページ30)

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飼い犬。knsm. ページ30

彼は疲れないのだろうか。

昼休みになり普段から座って職務を全うしている証である腰痛と肩こりを感じている中でふと視界の端に見えた人だかりの中心である彼のことを考える。

彼、というのは同僚のコネシマという男で
いつも昼休みは可愛い後輩や同僚達に
そして飲み会ではベテランの先輩方に囲まれている。

囲まれているというのはもちろんリンチされているとかそういう意味ではなく食事や話し相手に誘われるというような好意的な意味だ。

なぜあれほどまでに人望を集めることが出来るのか
そしてそれが苦痛と感じないのか
私には理解し難いがコネシマの笑っている顔を見るとそんなことはないのだろうなとわかる。

入社当時同い年ということもあり少しだけ喋ったがそれだけで彼が面白い人間であることと根は真面目であることはひしひしと伝わってきた。

きっとそれは今囲んでいる人たちもわかっているのだろう。

あぁ顔もイケメンだしな、と思いコネシマの方にチラッと視線を向けると彼もたまたまこちらを見ていたのかバッチリと視線があった。

最近というかここ3ヶ月くらい話題と機会がなくコネシマと話していないせいか少しの気まづさ感じすぐに目をそらす。

一瞬見えたフワフワと柔らかそうな髪の毛と笑っていた口元はなんだかペットとして飼われている犬を連想させて少し面白かった。

それはともかく昼休みなのだから昼食をしようと私は席を立ち上がる。

今日はどこのお店で食べようかなと考えながら足を一歩踏み出すといつの間にか目の前にあった白いワイシャツと爽やかな男性用の香水の匂いにぶつかった。

｢飯一緒に食いに行かへん！？｣

｢あっ、はい｣

ぶつかったことも突然の誘いにも思考が追いついていないまま私は先ほど目が合ったばかりのコネシマに速攻で返事をしてしまった。

えっなんでコネシマに食事誘われてんだろ
あといつの間に目の前に来てたのかもわからない
しかもコネシマの声が無駄にでかいからなのか周りの視線が痛すぎる。

私がこんなことを思っているとは知らないのか
それともわかっていながら気にしていないのか

そこら辺のことは分からないが彼は誘いに乗ってくれたのが嬉しいらしく満面の笑みで腕を引っ張り外へと向かって歩いていく。

｢俺めっちゃ美味い店知っとるからそこ行こ！！｣

やはり彼が飼い犬に見えるなんて失礼なことを考えてしまったのは秘密だ。