. ページ3
にやりとした笑いを浮かべながら近づいてくる彼に対して、私は無言のままクインケを展開する。
「おやおや、随分と反抗的な態度じゃねえの？そんなに死にたいわけ？……まあいいや。そっちの方がこっちとしても面白えし…殺したときに、美味い」
「……あいにく、自分はまだ死なないよ。
＿＿まだ、君に好きだと言ってないのに」
私の言葉に驚いたように目を見開く。その隙を逃すほど私は甘くはない。瞬時に間合いを詰めると、渾身の力を込めてクインケを振るう。しかし、それはあっけなく受け止められてしまう。
「へぇ〜、言うようになったなァ？……でもさあ、こんなんで勝てると思ってんの？」
そのまま押し倒され、馬乗りにされる。体格差があるとはいえ、まさかこうもあっさり形勢逆転されるとは思わなかった。
「ぐッ……」
「ほーら、どーすんのコレ？このままだと死ぬぜェ？」
首元にあてられた鋭い爪が皮膚を裂き、つうっと血が流れる感覚がする。
血と一緒に、滝澤くんの赫包も流れ落ちてしまえばいいのに。
彼と殺し合っている自分を遠くから見ているような錯覚に陥り、なぜだか心穏やかな気分になる。
死の淵に居るというのに、今から思うことはきっと、捜査官としてはあるまじき考えなのだろう。
「……良い、このまま殺せばいい」
気付けば、心の内を目の前の彼に吐き出していた。
とにかく伝えたかった。
君と殺し合うことが馬鹿らしいと。
君のいない世界は、あまりにも面白くないこと。
「は？」
「君が対梟戦で死んだと聞かされたとき、どれだけ自分が心を痛めたか……生きていてくれて嬉しかったのだけど、あろうことか君は喰種になっていた。……滝澤政道のいない生活は、自分にとってただ、つまらなく苦痛なばかりだ」
「……」
「だからせめて、最期には伝えさせてくれないか」
__愛している、と。
「……っ！」
途端、彼は勢いよく私の上から飛び退く。同時に彼の腕からは鮮血が流れ出る。
「……姫サン、アンタなんでそんな顔出来んだよ……」
「……え？」
「……なんでもねーよ、クソッタレ」
彼はそう呟き、どこかへと走り去って行った。
__あれは、一体どういう意味だったのか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
