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「何って……この人のこと見てただけ」
「……どうしてそんなことをするのか聞いてもいいかな？君みたいな子供が見るようなものじゃないと思うんだけど」
「ちょっと気になったから。だってほら、こんなにも荒れた死体、見たことがない」
そう言って彼女は、死体の腕を持ち上げた。そこには、人間の腕にはありえないほど鮮やかな赤をした肉があった。それを食い入るように見つめて、“喰種の仕業かな”と呟いたりもしている。
その歳で、喰種による死体の特徴＿赫子痕を知っているのか。
「……君、名前はなんていうの？」
「名前……？自分はA。親が喰種に喰われたから、ずっと探偵しながら生計立ててる。」
「……名字は？」
「ない。気づいたときには、自分一人だった。
……赤ん坊の頃は両親がいたらしいけど、もう覚えてない。」
「悪いこと聞いたね、Aちゃん。覚えた」
ひょっとしたら、彼女は捜査官になるべきかもしれない。
もしも、喰種への復讐を考えているのであれば、自分の身を守るすべを与えなければ。
「…Aちゃんはさ、“喰種”が憎い？」
唐突な問いに彼女の瞳が揺れるが、一瞬で元の位置に固定される。
「…憎んではいない。……そう言ったら嘘になる。でも…人も喰種も、何かを殺しながら生きるから。そこに、お涙頂戴の復讐や悲劇が入り込む隙なんてない…はず」
「随分大人びたこと言うんだねぇ」
篠原は少し困ったように視線を泳がせ、そしてしっかり目の前の少女を見つめた。
少し汚い言い方をするのであれば、彼女は“有用”だ。
「…今度、いや…今からでも良い。君の知恵を我々に貸してくれないかな」
「……どうして」
「君のような子供を巻き込むのは不本意だけど、今は少しでも多くの情報が必要なんだ。だからお願いできないかな。もちろん、それなりの報酬は用意するつもりだよ」
篠原は真剣そのものといった表情で、彼女に頼み込んだ。彼女の答えは、すぐに返ってきた。
「それなら勿論。…何なら今からでも」
「本当！？助かるよ」
少しチョロ過ぎて心配になりそう。
「どこに行けばいい？……言っとくけど、クインケ持ってるから本物だと思った。…自分は別にチョロくない」
「あ、なるほど。えっと、とりあえずは本部に来てもらって、それから……」
こうして二人はCCGへと向かっていった。
思えば、これが秘川Aの捜査官としての、始まりでもあった。
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