✵はじめまして、お久しぶりです。 ページ2
かつて捜査官として殉職した滝澤政道。彼は、生きていた。
＿＿＿想像しうる、最悪の形で。
死んでたと思っていた彼が生きていた喜び、彼が喰種と成り果てたことへの寂しさと苦い感情がごちゃまぜになって、表情筋が仕事を放棄する。
(好き、だったのに…なあ)
自分は生憎、少女漫画のヒロインのような鈍感さは持ち合わせていない。滝沢くんだって私のことを好いていた。それぐらい、彼の好意はあからさまだった。私の好意は表に出てこなかった。ただそれだけのこと。
眼の前の彼は、面白そうにもぎ取った他の捜査官の頭部を弄んでいる。
「もぎたてのパイナップルみてえだなー
＿＿こうすると、血が集まって美味しい」
べろりと、その頭部についた肉片を舐めとる姿はまさしく化物でしかない。
「チャオ。お久しぶりだね、タキザワくん。しっかし…まさか、タキザワくんをこの手で駆逐する日が来ようとは。人生万事塞翁が馬だね」
あくまで喰種捜査官として、努めて冷静に……いや、もとより表情筋は仕事を放棄したままなので、内心がどうであれ多少は冷静そうにみせられるだろうか。
「……これはこれは、おヒメさまァ。ご機嫌麗しゅう」
「……」
ふざけているのか本気なのかわからない調子で、彼は私に向かって恭しく一礼をする。
「……っ、秘川上等！ヤツは＿＿」
後ろから部下の声がしたが、それも一瞬で途切れる。振り返れば、そこには死体となった部下の姿があった。
(……ああ、やっぱり、君は喰種なのか)
とっくに知っていたはずなのに、心臓が鷲掴みされたように痛む。
「___俺と姫サンが話してんだろうが、あぁ？」
「姫じゃない、秘だよ」
軽口を叩くような口調で返すが、私の表情筋は相変わらず動かない。だから喰種共に“絶対零度”なんてあだ名つけられて、その度に滝沢くんがそんなことないと言ってくれたっけ。……今となっては、もう取り返しようのないことだけれど。
「人間ってホント馬鹿だよなあ。俺はちゃんとアンタだけに話しかけたんだぜ？それをよォ……無視して殺そうとするとか、マジ笑えるわ」
「……みんな任務中で気が立っているのだよ。それに、見たところ…君は喰種だろう？」
「それがどうしたんだよ。それよりさあ、俺腹減っちゃったんだけど。ちょっとくらい味見させてくれてもいーんじゃねえの？姫サンなら、少しは楽しませてくれんだろうし。な？」
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