文学監督生と帝国図書館 (ページ5)

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「おお、君が監督生くんか」

「よろしくお願いします」

猫の後を追いかけた先に待っていたのは、バルガス先生ほどじゃないけど、大柄の男の人だった。白シャツの袖を捲り上げ、緑のジャケットを松方掛けしている。

松方掛けとか言っても、松方◯樹が通じないんだろうな…異世界だから。
文豪とか言われているのも、きっと私の知り敬愛する方々ではないのだろう。

そう思いながらお辞儀から顔を上げると、目に映ったものに思わず声が出た。

「扇子…？」

日本の、扇子である。

「嗚呼」

男の人が、手元の扇子に目をやって言った。

「気に入ったものなんだ。この江戸紫というか、菖蒲色というか…良いだろう？」

「そうですね…え、江戸？」

この人今、江戸って言った？菖蒲って言った？
エドとかじゃなくて？勝負とかじゃなくて？ほんとに？
あれですか？こっちでは決闘の時に扇子を投げつける感じ？こわ。手袋より殺傷力高そう。

「あ、館長〜、司書って、その子？」

「おお、太宰」

「太宰？」

扉を開けて入ってきたリドル寮長並みに全体的に赤い男にかけられた名前。

＿太宰。

「太宰って…太宰って太宰？斜陽とか女生徒とかお伽草子とか、人間失格とか走れメロスの、太宰治？本名が津島修治の？無頼派の？心中自尽の？」

「うおっ…嗚呼、そうだけど？」

ドヤっという効果音が付きそうなポージングに、私は、崩れ落ちて泣いた。