月下美人の君.8

Girl On Fire.3 ページ10

すべての物の動きが止まった世界。

気が付けば…
Aだけが息をしているような、

とても孤独な世界だった。

力の反動なのかドクンッ…と心臓が大きく動き、
口から血がこぼれる。

その衝動をきっかけに、
止まっていた時間の針が進み始めた。


❄❄

介子坊が振り下ろした矛が、
Aの馬を真っ二つにしたと同時に

死神から心臓を握り潰されるような
背筋が凍る刹那があった。





血飛沫をあげながら、
バラバラになった体が飛び散る。


手ごたえあり…！と


勝利の微笑みを浮かべる介子坊の頭上に、



影が落ちた。


視線を上げると目の前に迫る刃と、
斬ったはずのAがいた。



その刃を身に受ける瞬間に、
Aと目がかち合う。


見かけはただの少女なのに、
その瞳の中には炎が燃えていた。



…すべてを燃やし尽くすような、紅蓮の炎が。




その閃光のような速さに…

周りの人間は、

紅い一閃が入った残像しか見えなかった。




そして目の前には…しっかりと地に足をつけて

光る刃を鞘に収めるAの姿が映っていた。



秦国兵 「「「か…勝ったのか？？！

あの介子坊に、勝ったぞッー！！！」」」


皆、目を疑いながらも、

拳を高く上げ雄叫びをあげる。



一騎打ちの勝利は、Aが手にした。



蒙恬は、Aの無事に安心して息を吐き出す。

介子坊を倒した彼女の剣撃の凄まじさに圧倒された。…だが、戦っている時のAは、
いつもの彼女とは別人のようで


何かが取り憑いているようなその姿に…

Aの人格を感じさせないことに…


いつの日か、その力に彼女を奪われそうで
怖くなった…。




介子坊 「ぐッッ！！…

調子にのるなぁ……ッ！」


怒鳴り声をあげる介子坊だか、一人で立ち上がる事が難しいのか側近の兵士達が体をささえる。


ふと…瞳に、いつも優しい色が戻った。


A「足の健(けん)を斬りました。

矢で片手も封じ、当分武器は持てないでしょう…。


それでも、立ち上がるなんて…

さすがです、介子坊さん…」


殺さずに生かす。迷った者から真っ先に死ぬ
戦場で最後までその想いを貫いたA。


まとめた髪と獅子の仮面で気づかなかったが、
初めて介子坊は、Aの存在を知り驚愕した。


介子坊 「…ッA殿ッ？！///」


気づいた途端、
今までの激情が消え顔を赤くする介子坊。


これ以上動けないその様子を見ると、

廉頗は決断を下した。

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