月下美人の君.8

愛別離苦.2 ページ7

傷に響かないように、優しく触れる。Aが来てくれた…と羌瘣の顔は珍しく微笑んでいた。


抱きつき、華奢な体を震わせて
泣いてくれるAが愛おしい…。

その頭を今度は、私が優しく撫でた。


羌瘣 「……カノンは泣き虫だな」


いつもは…姉ような存在のA。

象姉とはまた違って、


包み込むような優しさ、


どんな時でも凛として強い彼女。


でも、今日は立場が逆転だ。




…いつも他人を想い、

自分ではない誰かの為に、命までかけ

涙を流す、この女性が本当に大好きだと思った。




そして、先ほどの信の顔を思い出す。

…きっと昔からの付き合いの奴は分かっただろう。


明らかにいつもの信ではなかった。


どうせ、十中八九Aの事だろうと

予測はしていたが…。


案の定、Aの様子も酷かった。


彼女がいつもは絶対見せない弱さを、

見せる時はどういう時か羌瘣は知っていた。


それは、

…Aにとって、大切な誰かが亡くなった時。



他人の為に戦う彼女にとって、それは

もしかしたら、自分が傷つくよりも

辛いことなのかも知れない…と感じた。


羌瘣 「A。

…馬鹿は移るんだぞ。




これで、Aも馬鹿になった。


だから、忘れるな。



Aは…馬鹿で、


……大切な飛信隊の仲間だということを」



A「ッ………！」



その言葉に…やっと周りで


自分を見守ってくれている人達に気づいた。



そこには、かつて初陣を共にした仲間たちがいた。


尾平 「…皆…分かってんだ！

Aちゃんッ！！


輪虎が昔の知り合いだってことも…、

いつも自分じゃなくて、周りの人間の為に
戦うAちゃんの性格も！


たまたま敵だからってなんだってんだッ！？


知り合いが死んで、
悲しいのは当たり前の事だろッ。


俺たちは、誰よりも優しいAちゃんが好きだ！


大好きなんだ！…だから変わらないでくれ！」


尾平の告白には、殴りそうになったが
実際その場にいた飛信隊のメンバーの気持ちは一緒だった。

自分を傷つけてまで、
悲しみを殺す必要なんてない。



羌瘣 「…A、




信を……任せたぞ」


きっと鈍感な彼女には、伝わらないと思う。
でもそれでもいいんだ…。


どうか…信の心をどうかこれからも

支えてやってほしい。

癒してやってほしい。

…きっとそれが出来るのは、


この世界ではAしかいないから。

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