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「 おいしい……! 」
「 ね! 甘ったるくも苦くもないしいい感じ! 」
綺麗にコーティングされ、キラキラと宝石のように輝いているケーキをぱくりと一口。甘くもほろ苦いチョコレートが口全体に伝わって、幸せな気持ちが溢れる。正面に座っている悠真くんも幸せそうな顔でチョコレートケーキを頬張っていて、小さく笑みが零れた。
平日の夕飯前の時間帯だからかカフェにはあまり人がおらず、小さなクラシックと共に穏やかな雰囲気が流れている。騒がしいのが苦手なわたしにとってはこのカフェはとても居心地の良い場所で、初めて訪れた日からお気に入りなのだ。今食べているチョコレートケーキが出る前はチョコレートを使ったスイーツが一作品もなかったのが残念だったのだが、ようやくチョコレート嫌いの店長が折れたのか、やっとメニューに並んでくれた。
さらに通う頻度が高くなりそうだなぁ、と何処か他人事のように考えていると、突然悠真くんが席を立った。どうしたのだろうと彼の顔を見上げれば、悠真くんは苦虫を噛み潰したような、悔しそうな、そんな表情をしていた。
「 どうし、 」
「 ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね! 」
どうしたの、と問う前に悠真くんは何かから逃げるかのようにお手洗いへと消えていく。お腹でも痛くなったのかな、なんて呑気なことを考えながらぬるくなった紅茶を啜っていれば、ふと視線を感じたような気がした。わたしは綺麗に磨かれた窓の先へと視線を向けて、視線の正体をキョロキョロと探す。
「 ……だれも、いない 」
先程とは何も変わらない景色。不自然なくらいに人は通らない道を、ただ太陽が照らしている。本当に、さっきと何も違わないのに。なぜか、息が詰まるような何かがそこにあった気がする。
「 幽霊、とか? 」
なんて、真昼間から幽霊が出るわけないのに。冷房のせいか冷たくなった腕をそっと撫でながら、今のなにかが勘違いでありますように、と心の中で静かに願う。
チョコレートケーキはいつの間にか、形を崩し始めていた。
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