緑空 ページ9
阿部ｓｉｄｅ
花音が熱を出して倒れたとき、真っ先にＷＥＳＴに連絡をしたのは、花音が唯一素で居られる相手がそこにしかいないからだった。
「しげが行ったけど、あのバカ素直に甘えられとる？」
「うん。舘さんがしげと一緒に送り届けてくれてる。
Aの目元赤くなってたから、泣けたんじゃないかな」
連絡した神山智洋はAにとって喧嘩も軽くできる大切な同期の一人であり、重岡大毅はAにとって、かけがえのない人物であると察している。
濱田崇裕という元相棒でもよかっただろうが、彼は仕事の都合上来られなくて、神ちゃんがしげをよこしてきた段階でメンタルの部分で弱くなってしまっているのだと気が付いた。
「俺、明日も朝から仕事やったから宮舘君や居てくれて助かるわぁ」
「しげはよかったの？」
「ドラマの仕事はあるんやけど、午後からにしてもらえたから本人が行くってうるさかったしええんちゃうかな」
仕事は仕事と割り切っていられているのは彼らのすごいところだ。
舘さんはちょうど明日がオフだから何とかなるだろうと俺は、小さく息を吐いた。
「宮舘君が叱ってくれるやろうし、俺は聞かんかったふりしとくわ」
「はは、そうしてあげて。結構倒れたこと気にしてるっぽいから」
「せやろな。どうせ、しげにごめんなさいって謝っとるやろ」
仕事に穴をあけるようなことをしたくないと言う気持ちと、ため込んだストレスのバランスが崩れたのだと俺らも察していた。
うちの最年長は倒れるまで無理をさせたことを気にしているが、Aが弱音を吐かないのはいつものことだと俺は半分諦めの様な物があった。
俺も、同じだから。
「阿部君も倒れるまでやったらあかんで。二人とも似とんねん」
「さすがにやれないよ。俺までやったらうちの最年長の胃に穴あいちゃう」
神ちゃんは電話越しに笑っていた。
神ちゃんには神ちゃんの向き合い方があって、俺には俺の向き合い方があると冷静になった頭で考える。
「阿部君、Aには遠慮するなんて疲れるだけやで。
本気でぶつかって何も考えん阿保やないから、遠慮しなくてええんちゃうか」
「できたら俺だってこうやって電話してないよ。
･･･俺より、翔太とかめめとかの方が向いてるんだから」
「頭いい人らの面倒なとこやな。考えてから話してくれる優しい人らやで」
その優しさが彼女を苦しめていたらこうやって笑い話にはしてくれないだろうと俺はそっとため息を零した。
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作者名：重岡優月 | 作成日時：2022年8月4日 18時
