雪の中に咲く一輪華 (ページ35)

今日:27 hit、昨日:3 hit、合計:47,955 hit

＊ページ35

重岡ｓｉｄｅ

念願だったドームの話がコロナによってなくなってから、俺たちはそれぞれが個人でレベルアップのために仕事に没頭していた。
俺もドラマの話をありがたいことに多く頂いて、今回は主演の話がきた。

「しげがシングルファーザーの役ね」

「しかも、奥さんは姉ちゃんやろ！？ずるない！？
俺も姉ちゃんと共演したい！！」

パパジャニでたくさんのこどもと接してきて、少しだけ想像することができそうな役どころだが、同時に俺には小瀧が言う様にデビューして初めてのAとの共演が決まっていた。

欲望丸出しの小瀧だが、入所時からAのことを姉ちゃんと呼んで後ろを着いてまわっていたくらい懐いていたから今回の俺との共演がずるいと駄々をこねていた。

「……多分やけど、Aが両親と過ごせた時間って俺ら以上に少ないから考えさせられるんちゃうかな」

「…せやな。おばあちゃん子やったし、両親も不仲ではなかったから思い詰めることはないやろうけど、どうしても過ごせたのは５歳までやったから、気持ちが追い付くかどうかやな」

濱ちゃんと神ちゃんの言葉が俺にも響いた。
Aとの共演で浮かれていた俺の頭をクリアにさせてくれるのはこの二人やった。
テレビの前でのあいつはもう天涯孤独の身であるとは思わせないほど強い光で照らしだしてくれている。
それでも……ふとした時にAは寂しそうな表情をするときがあるのだ。

周りが当たり前に話せる家族との話の時、あの子は悲しそうに見えるときが小さい頃からあった。
強がって、自分は平気だと言い聞かせているだけなのではないか、と俺はあいつが泣きたくても泣けなくなってしまってから気が付いた。

「しげちゃんも大変やけど、Aのこと頼むで」

「……おう」

「素直に助けて暗い言える奴やったら、俺らも心配せんでもええんやけどなぁ」

濱ちゃんはそうやって困ったように笑っていた。
それでも、心配させてくれなくなったら寂しくなるのだと言っていたのだから、Aと濱ちゃんは切っても切れない縁があるのだと思う。

俺は近づいてくる顔合わせまでどうやってシングルファーザーをあいつの夫役を演じ切るかそれで頭をいっぱいにしていた。