雪の中に咲く一輪華 (ページ32)

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お出かけページ32

しげと仕事終わりだとしてもお出かけに出られることは私にとって幸せな時間だ。
北斗にほんの少しだけ自分が今まで隠してきた想いを明かしたのもきっと、彼は黙ってくれていると信じられるだけの仕事をしたからだと思う。

今後、彼と仕事をするとしても、メンバー以上にバレたとしても怖くはない相手だから。
メンバーに言えないのは、私が怖がりで、弱いからだ。

辰哉たちだけには呆れられたくないのだ。
いつだって、強い私で居たかった。

そう見えるようにするしか道を知らなかった。

「A」

彼に名前を呼ばれただけで、こんなに胸が締め付けられているなんて、誰も知らない。
返事をして、ほっとした彼に胸が高鳴るなんて誰も知らないんだ。

「この前神ちゃんが静かでええカフェ見つけたからそこ行こ」

『…結構そういうところ好きだよね』

「二人で居ってもバレへんところがええやん」

歩き出したしげの隣で私は小さく頷いた。
デビューする前から気を付けてはいたが、デビューしてからというもの、自分たちを知ってくれた人たちが増えて外でゆっくりできることも減ってしまった。

完全にプライベートは黙秘したがるしげと一緒に向かえば声を掛けられることは無くカフェへとたどり着くことができた。
レトロなジャズが流れるひっそりとしたそのカフェは隠れ家の様だった。

「神ちゃんおすすめだけあってええ感じやん」

『…うん』

コーヒーを頼んでしげに断りを入れてからタブレットを開く。
ようやく正式に解禁した”ナミダの海を越えてゆけ”をフルで見てもらう。

「……カウントダウンの時のAのフルより、こっちの方がやっぱりええよ」

『…私も同じこと思ってた。』

「一人でこれを歌いきったのはすごいけど、お前の声もみんなの声もこっちの方がしっくりくる」

一人でもソロでデビューすることをJr時代から何度も何度も進められてきた。
それでも、断り続けたのは私には仲間が必要だったからだ。

『しげにみんなとの方がよかったって言ってもらえてほっとした』

届けられたコーヒーを一口飲んでからほっと息をつく。
しげは不思議そうな顔をしていたが、彼の音楽性に私は引き込まれていて、私には書けないような歌をつくりだす彼に憧れすらあるのだから当然だ。