ハプニング ページ16
デビュー1年目にして、紅白歌合戦に出場が決定してみんな浮ついていたのかもしれない。
誰のせいでもない、涼太のコロナ感染で私たちはかなり衝撃を受けていたのだと思う。
「ごめん。……本当に、ごめんね」
通話の向こうで苦しそうにそうやって何度も謝る涼太に私は唇を噛み締めて、涼太は悪くないと何度も繰り返すことしかできなかった。
SnowMan紅白歌合戦辞退の裏で、私は単独でカウントダウンと紅白歌合戦の参加を事務所に勧告された。
断る道もなかった強制参加で私はただ、流れに任されるように受ける他道は選べなかった。
『……このため……だったのか』
１１月に入ってから、グループでの仕事は最小限にされていて、ドラマや映画の収録に追われていた。
一人だったからこそ、濃厚接触者の認定から外れられて、昔から言われていたソロでの参加を余儀なくされた。
望んでもいない形での参加に感情が追い付かない。
「A！！」
だから、タイミングよく楽屋に来たしげを見て、溢れんばかりの涙がこぼれてしまったんだ。
泣き出した私に一瞬足を止めて、しげは同じ位泣きそうな顔をして抱きしめてくれた。
『っ……なん、でっ……』
なんで、いるの、という言葉にもなっていない声をしげはわかっていると言う様に強く私の頭を抱きしめた。
「滝沢君と、ふっかに全部聞いた。辛いな……怖いやろ」
『っ……つら、いよっ……！一人じゃ、意味ないっ……！！』
誰にも零せなかった気持ちを、彼は当たり前の様に拾ってくれるのだ。
ＳＮＳで好き勝手に言われて、望んでもいないソロ疑惑を疑われる。
心は限界だった。
「せやな。一人でやっていきたいなんて思ったことないもんなぁ」
『っ……うん』
暗闇に行きそうになる私を掬い上げてくれるのはいつも、しげだ。
しげにいつも救われる。
「今回の件は、もう取り消しもできへんとこまで行ってしまっとる。
やるしか、あらへんところまで上は手を打ってきてることはわかっとるよな」
「…紅白のほうでは俺は助けてやれへん。
でも……カウコンの方なら助けてやれるから。がんばれ」
助けてくれるというその言葉にいつもどれだけ救われているのかきっと、この人は知らない。
真っ暗になった世界にどれほどの光を差し込んでくれているのか、きっと…しげは知らない。
「ソロ曲も、出さなあかんけど……Aの思う様にやったらええから」
道しるべをくれたしげに私はそっと顔を上げる。
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作者名：重岡優月 | 作成日時：2022年8月4日 18時
