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振りほどかれた手
私から離れていく後ろ姿
姉に向けるような微笑みも
優しい声も
私は何も持ってない
彼が私を選んでくれることはない
…そんなのもう嫌というほど思い知った
「それは罪悪感からですか…?」
きっと彼は囚われている
「私はもう何もいりません…私も幸せだった。だから謝罪も償いも求めていません…何度も言ったようにただ本当に、放っておいて欲しいだけ」
目を瞑りながら言う
確かな幸せがそこにはあった
誰かのために掃除をして、ご飯を作って
おかえりなさいって言って
ただいまって返して貰える
「…幸せだったよ」
誰かにとって当たり前のことは決して当たり前なんかじゃない
だからこそ本当に幸せだった
もう充分
「もう終わりにしよう…こんなこと。私も……悟も、きっと間違ってた」
悟は姉に幸せになって欲しかっただけ
私は悟と幸せになりたかっただけ
始めはただ
それだけだった
沈黙の後、悟の片手だけがほどかれた隙に腕から逃げ出そうとするが、もう片方の手でしっかりと抱き締められていて叶わない
どうしたものかと「ふぅ…」と息を吐いていると、すっ、と目の前に小さな入れ物を差し出される
首を傾げながら悟を振り返ろうとするがやはり離してくれる気はないらしい
大人しく小箱を見詰めていると、悟は片手で器用にそれを開けた
「………どういうつもりですか?」
「好きだよ」
「やめて…」
「どうしたら信じてくれる?」
「そんな…、の……」
無理です、と言おうとした言葉は続かなかった
同時に振り返ると今度は嘘のように容易に手は振りほどけて悟を振り向くことができた…のだが
私は振り向いた先にあった悟の表情に目を見開く
「……………どうしたの?」
「……るせ」
耳どころか首まで真っ赤に染めた悟が真っ直ぐにこちらを見ていた
え…本当にどうしたんだろう?
私は脳をフル回転させて考えうる可能性を思い浮かべた
そう、これは…
「熱?!」
「オマエいい加減にしてくれない?…いや俺が言えた義理じゃないのは分かってるけどっ!」
あ〜もうっ!、と美しいまでに白い髪をガジガシと乱暴に掻きながら膝を折り股を開いたまましゃがんだ悟
しかし差し出された手と、小箱の中で飾られた物の輝きはそのまま
「………どうして指輪なんて渡そうと思ったの?」
「…本当は誕生日に渡すつもりだった」
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ksbgtenmushi(プロフ) - すごく好きな作品でいつも続き楽しみにしてます!!是非続編のパスワード教えていただきたいです(o^^o) (2021年5月1日 1時) (レス) id: e9d7731bcb (このIDを非表示/違反報告)
あずき(プロフ) - いつも楽しく拝見させて頂いてます!!続編のパスワードを教えて頂きたいです。 (2021年4月27日 22時) (レス) id: 1f3621aec0 (このIDを非表示/違反報告)
雪椿(プロフ) - いつも楽しみにしています。続編のパスワードが解けるその日を心待ちにしてます(*^^*)応援してます! (2021年4月26日 22時) (レス) id: e95a52c7d4 (このIDを非表示/違反報告)
noenatsu(プロフ) - 続きがきになります!パスワードを教えて頂きたいです! (2021年4月26日 22時) (レス) id: a7d2cd1144 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 続編も楽しみにしていました! パスワードを教えていただけないでしょうか? (2021年4月26日 20時) (レス) id: 947d5e398f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かのん | 作成日時:2021年2月26日 0時