夜殺し【古森元也】 (ページ5)

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5.暖ページ5

「夜野さん、一緒に帰らない？」

机の中から教科書を取り出してカバンにしまい込んでいると、大きなスポーツバックを持った彼がいつもの輝いた笑みを浮かべながら誘ってきた。

「部活は？」

「今日は休みなんだって。」

ふーん、そうか。
…いや、

「なんで私と？」

「殺す方法、思いついたんだ！」

にこっ、笑う彼の笑顔に偽りはなさそうだった。発した言葉の物騒さと明るい表情は酷く矛盾している。
そうかー、ついに殺されちゃうのかなんて馬鹿みたいに脳天気な私は、それならいいよと答えて立ち上がった。正直、殺されたら困る。殺して、なんて頼んだけど死ぬのは怖い。

矛盾に矛盾を重ねて、結局どうされたいのか自分でも分からなくなっちゃった。

…でもきっと、彼に私は殺せない。本当に殺そうとなんて思っていないでしょう。だって、君はみんなの光なんだから、人殺しになんてなったら真っ暗だよ。あ、でも殺されることに同意してるから殺人未遂かな。

リュックを背負うと、彼は私に背を向けた。

「じゃあ、とりあえず俺に着いてきてね。」

誰かの隣を歩くことなんて久しぶりで変に緊張してしまう。しかも、よりによって他クラスにも知り合いが多いこの人と歩くなんて、余計に。私は下を向いて人の足が行く先を見極めて、踏まないように、ぶつからないように歩いた。

「下向いてると転んじゃうよ？」

そっ、と取られた左手。体温が伝わってくる。何をされたのか咄嗟に理解が出来なかった。

「は、離して」

「ううん、離さない」

約25センチも上にある彼の顔をちらっ、と覗いてみると見たことがない真面目な顔をしていた。
あれ、本気で殺されちゃうんじゃない？
急に、彼の隣にいるのが怖くなった。だけど、手の温もりは本物で、暖かくて、落ち着く。恐怖を紛らわすためにそっ、と繋がれた手を軽く握り返した。

なんだかおかしい、気分が高揚して体中が熱い。こんなの初めてで、なにがなんだかわからない。彼が私を引っ張ってくれるから、目線を下にして歩き続けていたら、昇降口についたところでぱっと、手を離された。

「ごめんね、急に。でも人の多い廊下で下向くのは危ないよ」

「あっ、う、うん。」

私はこれから目の前にいる人物に殺されるというのに、普段よりやけに古森元也という人間が輝いて見えた。それは、オレンジの光のせいではなかった。