3.彼 ページ3
それから、私は古森元也という人間を観察し始めた。バレないように、本人に気づかれないように慎重に。席が後ろの方で助かった。見ていてもバレる確率は低いから。2日間ほど観察し続けて分かったことは、5つ。
ひとつ、彼はいつでも笑顔なこと。
ひとつ、彼の周りではいつでも人がいること。
ひとつ、彼はとても優しい人間だということ。
ひとつ、彼は他クラスの佐久早聖臣と仲がいいこと。
ひとつ、勉強は得意な方っぽいこと。
彼と仲がいい訳でもない私が知ったような口を聞けるわけがないけれど、この5つは確かな事だ。偏見で申し訳ないが、根暗そうな佐久早聖臣とよく一緒にいるのは不思議だと感じたが、それも彼の人間性故なのか。兎にも角にも改めて私とは正反対な人間だと思った。
「夜野さん」
「えっ、」
声をかけられたことに驚いて、肘が勢いよく机から落ちる。あれ、いつの間に放課後になってたの。それより、普段誰かから声をかけられないから苗字を呼ばれたことに動揺が隠せない。それだけで頭がいっぱいいっぱいなのにゆっくりと顔を上げた先に目に映った私を呼んだ主の姿を見て、さらに吃驚した。
「自意識過剰だったら悪いんだけど、最近夜野さんからの目線を感じる気がして。だから声かけてみた。」
え、バレてたの。どうしよう、気持ち悪がられてるかな、そうだよね。話したことも無いクラスメイトにずっと見られてたなんて気分いい事じゃないよね。わたしは頭が真っ白になって、何を言うのが正解かわからなくなる。今すぐここから逃げ出したい衝動を押えてやっと出た言葉はごめんなさい、だった。
「あ、いや謝らせたかったわけじゃないんだ。」
あ、困らせちゃった。それすら申し訳ない。このあとどうするのが正解なのか、頭の中で思考を張り巡らせて考えるが、突如前に現れた「正反対の人間」とどう関わるのが正解なのか分からない。
「もしかして、話すの苦手だったりする?急に話しかけてびっくりしたよね。」
相手の気持ちを汲み取る能力まで長けているのか、この人は。
あぁ、なんて眩しい人なんだろう、例えて言うならこの人は、「昼」かな。いやそれよりも「太陽」そのものの方がしっくりくる気がする。それくらい、明るくて、眩しくて、輝いてる。
絞り出した言葉は今考えても、どうかしていたと思う。
「…古森元也くん、私を殺してくれない?」
9人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あのね(プロフ) - 面白かったです〜〜!素敵な作品ありがとうございます!! (4月16日 21時) (レス) @page12 id: 695de6ced5 (このIDを非表示/違反報告)
匿名482 - 面白かったです (2022年5月7日 23時) (レス) @page12 id: e922a09c70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うみね | 作成日時:2020年5月31日 19時