帰国 ページ5
嫌だ嫌だと言っても、その日は無情にもやってくるのだ。
やってきたのに、全く荷造りしない男が1人。
「俺帰ることしない」
「ダメだってば〜」
「帰ってほしいか」
ムスーーっとして私を見るselly、そんな可愛い顔したってダメなものはダメなのよ。
帰って欲しいかなんて聞かないでよ。
「もう、そんな顔してもダメ」
私はそう言いながらホテルの部屋の歩き回り、sellyの荷物を回収してはキャリーケースに詰めていた。
洋服とか私物とか、一つ一つ綺麗に畳んで、綺麗にしまった。
「帰ることしたら会えなくなる」
「それはそうだけど」
「それ嫌じゃないの」
「嫌だよ」
嫌だけど、どうしようもないじゃん。
これだけは覚悟していたことじゃないか。
考え始めてしまった自分の手が止まる。
荷造りしないと、ギリギリにしたらsellyが忘れ物しちゃう。
そう思って手を動かすけど、感情はもはや制御出来なかった。
視界がぼんやりしてきて、
もう制御なんてきかなかった。
sellyの洋服に小さくて丸い模様が出来上がっていく。
泣いたら、もっと寂しくなる。
泣いたら、sellyだって帰りにくくなる。
だから泣かないって決めていたのに。
sellyがわがまま言うからだ。
「A？」
私がキャリーケースの前から動かなくなったのを見て、sellyが私の名前を呼んだ。
でも返事なんてできる状態じゃなかった。
帰らないで、お願い。
って、そう言いたいのを我慢すればするほど、言葉が涙に代わって出て行く。
こんな最終日は嫌なんだ。
綺麗に韓国へ帰ってもらって、それでもし、もしsellyが他の人を好きになっても、sellyの中で綺麗な私で終われるように。
「A・・・？泣いてる？」
「泣いて、ないよ」
強がる私はあまりにも滑稽で可愛くない。
そんなのはわかってる。
鼻をすする音が部屋を支配して、私は我に返った。
泣いてる場合じゃない。
そう思って、sellyの荷物を再び詰め始める。
洋服はこれで大丈夫そうかな？
なんて思って立ち上がると、私は大好きな腕の中に包まれた。
ふわっと、sellyの匂いが鼻をかすめて、心臓がきゅっとなる。
私の右肩にsellyが頭をのせた。
「おれ・・・ごめん」
「ううん。ごめんね、selly」
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作者名：miton | 作成日時：2022年1月1日 3時
