【刀剣乱舞】桜散れども【男主】 (ページ13)

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「……――っ、……っ、？」

　ひゅ、と声になるはずだった息が喉奥をから回った。
　自分の意志に反して呼吸が詰まる感覚に、本能的にどっと冷や汗が湧き出る。

「(息が――違う、声が……出ない？)」

　咳き込みながらもなんとか吸っては吐いてを繰り返す。
　仰向けの状態から重い身体を起こし、呼吸が落ち着くまで畳の目を眺めて待った。

　ふと見れば、ただならぬ気配を察したのか布団の傍らで寛いでいた虎くんも身を起こし、じっとこちらの様子を窺っている。大丈夫だよ、と出せない声の代わりに頭を撫でた。

「(口封じか何かの術……？いや、それにしては何の気配も感じないけど……)」

　辺りを見回す。瘴気など欠片もない、よく手入れされた明るい和室。
　虎くんが侵入してきたのであろう少し開いた障子から、穏やかな昼の日差しが室内を照らしていた。

　空間に満たされた霊力からしてどこぞの本丸なのだろうと思うものの、心当たりは一切ない。

　――そもそも、意識を失う以前に己が何をしていたのかすら思い出せないのだ。

「(いつも通り出陣して、本丸に戻って……ええと、それから……主に会った？いや、違う……？)」

　記憶を探るほどに頭が痛み、顔をしかめる。
　断片的な記憶は脳内で無秩序にひらめくばかりで、この状況を説明する材料にはならなかった。

　……ただ、そういえば。
　意識を失う前に、兄弟たちに会った気がする。

　はあ、と息を吐いた。記憶も状況もまるで掴めない、見知らぬ場所。
　それでも本体である長脇差は手元にあるし、戦場にいるのような警戒心を抱けないのは純粋にこの場所から敵意や害意を感じないからだ。

　自分の身体を見下ろす。
　眠っている間に手入れされたらしく、傷の一つもない身体。痛くは、ない。

　開いた障子を見遣れば、隙間から庭の桜の木が見える。

「(…………桜、咲いてるんだ。この本丸)」

　吸い寄せられるように立ち上がり、障子の方にふらふらと足を動かした。