132.束の間の喜び ページ32
それはほんの少しの間だったかもしれないし、思っていた以上に長い間だったかもしれない。
《織田作の意識が戻った》
彼の人の目覚めを待っていた時間は。
太宰からの連絡を受け、直ぐにでも彼のもとに戻りたかったが、どうやら肝心の織田さんは目が覚めるやいなや、別の任務に出かけて行ったらしい。
帰り次第太宰が知らせてくれるらしいので、私も仕事をすることにした。
外の任務なので帽子を目深に被り、なるべく大股で、男らしく歩く。
と、中々気を付けていたとは思うのだが。
「よォ、お前が占部Aだな?」
ガラの悪そうな輩に囲まれた。
流石に数が多いな。
「今日は中原中也はいないんだな?」
輪の中に、見覚えのある顔があった。
中也に脅されてもう懲りたのだと勝手に思っていたが。
私は確かに一目で女だとわかるような顔でも体型でもないが、その分認識された後の印象が強いのだ。
それではちょっとした変装では騙せない。
「わかった、降参だよ。何処にでも連れてってくれ」
両手を頭の高さまで上げて、抵抗するつもりがないことを示したが、後頭部に強い衝撃を感じた。
「連れていけ」
と、リーダー格の男の声を消える意識の中で拾い、もう少し優しく接してくれよと心の中で文句を云った。
*****
目が覚めた時、私の自由は奪われていた。
両手は後ろで拘束され、両足は枷と鎖で繋がれていた。
ご丁寧に首にも鉄枷が嵌められ、背後の柱に鎖で繋がれていた。
身じろぎすると、足枷と首輪の鎖が音を立て、両手首の麻縄がぎりぎりと食い込んだ。
やけに音が響くと思えば、此処は大きな倉庫の中だった。
外の波音と潮の匂いから、ヨコハマの港だと確信した。
よし、まだ市内だ。
手首の縄を運よく解けたとして、鍵がない以上は足と首を拘束されて逃げ出せないという状況は絶望的だが、ポートマフィアの本部が近ければ少しは安心できる。
私もすっかりマフィアだな、と思わず笑ってしまった。
「おい、何笑ってやがる」
こういう声がなければ、もっと笑えたんだけど。
五、六人の大男達が座り込んでいる私を見下していた。
ずっと目の前にいたのに、私が視線を向けず何も発しなかったのが余程頭にきたのだろうか。
ならいっそ、もっとわかりやすく怒ってくれ。
「ああ、いたのか」
「てめぇッ!!」
ガシャンと音がして、肌がズキズキと痛んだ。
煽ったのは私だが、真逆硝子瓶で殴られるとは。
流れる血も気にせず、私は男を睨みつけた。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2019年1月3日 1時