129.歯がゆい ページ29
太宰がふっと微笑んで緊張を解いた。
「織田作には心配をかけたくないものね。大丈夫だよ。今の案件が片付いたら私が解決してあげる。終わったらちゃんと織田作に報告しよう」
少し脅しすぎたかなと云って太宰は席に戻った。
「済まない、太宰。本当はお前にも迷惑はかけたくないんだが」
「謝らないで呉れ。迷惑なんかじゃあないからね」
「ありがとう」
素直に礼を云うと、太宰は照れ臭そうに笑った。
「いいよ。私たちは友達なんだから」
「ああ、そうだな」
何度もきいた太宰のその言葉が、今日は何とも心強かった。
*
太宰の忠告通り、私は常に周りを警戒し、外に行くときは必ず髪を隠していた。
仕事自体は順調に進んでいたが、組織は次第に慌ただしくなり、ああこれが太宰が云っていたことか、と思った。
とても気になるが、何か云われない限りは訊ねてはならない。
もどかしい気分で廊下を歩いていた時、角で人とぶつかった。
「すみません！」
と倒れかけた相手を受け止めると、それはよく知る人物だった。
「芥川？！」
「ああ、占部か」
其れだけ云ってごほごほと咳をした彼は、よく見ると怪我をしていた。
「これは……」
「気にするな。お前の気にする処ではない」
気にするなと云われても気になる。
この汚れ方は任務ではない。となると、
「太宰か？」
芥川は何も言わなかったが、体の硬直から見てそうなのだろう。
相変わらずやり過ぎだとは思うが、太宰の考えを知ってしまった私には、それに文句を云う気にはなれなかった。
「済まん。答えにくかったな」
せめて手当だけでもと、医務室へ連れて行こうとすると、芥川は先にそれを察して私と距離を取った。
「芥川？」
「不要だ、自分でする。僕のことより、お前は自分の問題に専念しろ」
それだけ言い残して立ち去っていく。
太宰、芥川にも云ったのか。
ああ、久し振りだ、この感覚。
最近はもう慣れたものかと思っていたのに。
歯がゆい、悔しい。
年下の彼らに気を使われることが。
然もその気持ちが以前よりも大きい。
くそ、私にも何かできればいいのに。
せっかく異能力があるというのに、私はそれを自在に扱えない。
ぐっと拳を握りしめて、やり場のない感情を飲み込んだ。
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作者名：京beスウィーツ | 作成日時：2019年1月3日 1時
