127.厭な声 ページ27
案内してもらった扉には、確かに猫が入れるように、低い場所に小さなくぐり戸が付いていた。
先刻の映像で見たものと同じだ。
扉の動きを制限するようなものは何も置かれていなかったが、くぐり戸を押すと、その戸自体が動かなかった。
「まぁ、どうしたのかしら。前まで動いたのに」
「何か挟まっているのかもしれませんね」
戸をよく見ると、隙間に木片と泥がこびりついていた。
猫が通る内に溜まっていき、猫が長く家を空けた間に固まってしまったのだろう。
「そういえば、丁度一週間前、どろどろになって帰ってきたのよね。シロ自体は洗ったんだけど、此処までは気にしてなかったわ」
「恐らく、長い間使われなかったのもあると思います」
「そうかも知れないわ。長いときは三日ほどいなくなる時もあるから。でも一週間っていうのは初めてで……そうなのね、戻ってきても入れなかったのね。じっとしてるのが苦手な子だから私も気づけなかったわ」
もう戻ってこないこともあるのかしら、と不安そうな彼女に、変に希望を与えるのは厭だった。
けれど、なんの根拠もないのに、先刻の映像が現実になる自信があった。
「多分、今日また戻ってきますよ。その時に入れるように今掃除してしまいましょう」
「そうよね。今度来た時に開かないと困るものね」
いくらか元気を取り戻した彼女と一緒に、泥を取り除いてきれいにした。
「よし、動きますね」
「ええ、これなら大丈夫そう。お姉さん、ありがとうね」
「いえいえ、早く戻ってくるといいですね」
「そうね。次は紹介できるといいわ」
彼女は「また来てね」と、お礼に追加でパンを持たせてくれた。
仕事でなくても、また、織田さんと来てみようかと思った。
それにしても、不思議な体験だった。
自室に戻り、寝台に転がりながら考える。
あれが、私の異能力なのだろうか。確か予知ができるとかなんとか云っていたな。
その所為で私の島はなくなったが、誰かの役に立つ力でもあるのか。
――戯けたことを
厭な声がした。
肩が、腕が、熱くて痛い。
この前より範囲が広い。
見ると、両腕にびっしりと黒い紋様が浮かんでいた。
いったい此れは何なんだ?!
――お前の罪だ
私の罪?
――罪は償わねばならぬ
――お前はもうすぐ大事なものを失う
何だって?
――全部、全部だ
――苦しめ、悲しめ、そして後悔するがいい!!
高笑いして、その声は消えた。
同時に痛みも引いたが、気分は最悪だった。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2019年1月3日 1時