103.髪 ページ3
当たり前のように織田さんに奢られて店を出て、本部まで送り届けてもらう事になった。
今日は復帰後初の仕事日だったのだ。
ちょっと混乱したからといって仕事を投げ出してきてしまったのは反省している。
そういえば、今日の織田さんの仕事は何なのだろうか？
横にいる彼の顔を窺おうと視線を上げたら、ばちりと目が合ってしまった。
どうやら織田さんも何か会話を持ちかけようと此方を向いた瞬間だったらしい。口が僅かに開いている。
ちょっとの間見詰め合って、織田さんから切り出した。
「A、身体はもう平気か？」
「はい、まだ気だるいですけど、大丈夫です」
「なら良かった」
ふわりと微笑まれて、かぁっと頬が熱くなる。
今迄は平気だったのに、一丁前に意識しているんだろうか？それともまだ酔いが残ってる？
「A、顔が赤くなったぞ」
「え、いや、まァちょっと」
心配して顔を近づけてくれる織田さんが一番心臓に悪い。
「ところでッ！織田さんの今日の任務は何ですか？！」
食い気味に云ってしまったが、織田さんは僅かに身を引いて驚いたのみで、
「聞くほどのものでもない」
と、私の頭を撫でて答えてくれた。
どうして、此の人の手はこんなに安心できるのだろう。
春の日差しみたいに温かくて、ふっと気が抜ける。
「私、織田さんの手、好きだ……」
気づかぬうちに漏れ出た言葉にまた顔が熱くなる。
こんな恥ずかしいこと云う心算なかったのにッ！
織田さんの前で色々やらかし過ぎだろう！
けれど解っている。
織田さんはその事で何か云ったりしない。
太宰みたいに揶揄ったりしない。
「それは、嬉しいな」
全て受け止めて、返してくれる。
優しい人だ。
と、するりと彼の手が私の首元までおりた。
髪の毛先を触られて少しくすぐったい。
「何してるんです？」
「髪が伸びたと思ってな。不快に思わせたら済まない」
「いえ、全然大丈夫です」
どちらかと云うと心地好い、と云うのだけは必死で抑えた。
織田さんの手が離れると、何だか寂しい気分になる。
私は“恋の病”と云う奴の重症患者なんじゃなかろうか。
織田さんはロングヘアーの方が好きなのだろうか？
髪、伸ばそうかな。
織田さんが触れた首辺りに、本部に着くまでに数回手を伸ばしてしまうあたり、私は織田さんにべた惚れしているようだ。
――――駄目だよ、Aちゃん
頭の中で響く警告音に気づかぬ程。
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作者名：京beスウィーツ | 作成日時：2019年1月3日 1時
