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119.私の総て ページ19

「A、大丈夫だ」


背中に回された手が温かい。
包み込まれている安心感が心地よい。

今、目の前に全てを預けられる人がいる。

そう認識すると、徐々に痛みが引き、遂には消えてなくなった。
右腕を確認すると、範囲は拡大してしまったものの、以前のように薄くなっていた。


「A」


一旦織田さんから距離を取ると、心配そうな瞳と目が合った。
その瞬間、なんだか泣きたくなって彼の胸板にしがみついた。


「大丈夫か?」

「大丈夫、です」


手も離せないのに、自分でも莫迦なことを云っているとは思った。


「無理をして強がるな」


織田さんはそっと私を抱きしめ直してくれた。


「俺に出来ることがあるなら何でもしよう」


だから我慢するな、と。
余りに優しい言葉に、駄目だと解っているのに、口が開いてしまう。


「まだ、怖いです」

「何が怖い?」

「考えたくないです」

「なら考えなくてもいい。じゃあ俺は何をすればいい?」


何を、して欲しいのだろうか。
もう既にたくさんしてもらっているというのに。

ただ、若し、若しそんなことが許されるのなら――。


「私を、抱いてください」


今まで散々厭な目に遭ってきた。
体を暴かれそうになる度に強い恐怖を感じてきた。

けれど、今は全て曝け出してしまいたいと思う。
私の全てを委ねられる人に、全て明け渡してしまいたい。

全身でその人の存在を感じたい。

その人で、織田さんだけで私を埋め尽くしてほしい。
何も考えられないほど。




「後悔するなよ」




ほんの少し驚いた顔をしてから、織田さんは接吻をした。
甘くとろけるような感覚に、後悔なんてする筈もないという返事すらとけてなくなった。

彼に触れられるところすべてがじんわりと熱を持って、先ほどの爛れるような痛みを浄化していくようだった。
彼の指先が余りにも優しいから、我慢するなと囁くから、嬉しくて、ないた。
自分でもはしたないと解ってい乍らないた。

自分の中の全てが織田さんで埋め尽くされていく。


「織田さん、織田さんッ!」

「A、俺はここにいる。大丈夫だ」

「織田、作之助、さん」


私の愛する人。私を愛してくれる人。
私にとっての総て。

貴方の為ならば私は何でも出来る。
人を殺めることだって出来てしまった。

でも、貴方がいなくなってしまう方がよっぽど怖かったんだ。


「A、もう一度名前を呼んでくれるか?」

「作之助さん!」


貴方が此処にいてくれる。
それだけで十分だ。

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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2019年1月3日 1時

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