111.逢引 ページ11
太宰に起こされ顔も洗った今、再び眠る気にはなれなかった。
部屋に篭っているのも詰まらないし、先日の殲滅作戦で私を狙う輩も殆どいないだろうと外出も前ほど気を使う必要はないし(それでも注意は払っておけとのこと)、普通の人らしく買い物にでも行く事に決めた。
身支度を丁度整えた時、
「織田だ。居るか？」
二回の叩敲の後に耳ざわりのよい声が聞こえた。
てっきり太宰が仕事を抜け揶揄かいに来たのだろうと声を聞くまで高を括っていたので、正直心臓が飛び出るほど驚いた。
「はい、居ます！」
気持ちを落ち着けて扉を開くと、矢張り、織田さんが居た。
いや、わかってはいた。心臓も一旦落ち着けた。
けれど、何なのだろう。
身体の芯から熱が込み上げてきて、熱い。
冷静に努めてはいるが、心中穏やかではない。
織田さんは私の姿を認めると、
「それで、何の用だ？」
「はい？」
私が云いたい言葉を云った。
直ぐに思い浮かんだのは、
「太宰にAが話があるからと聞いて来たんだが……」
矢張り太宰か。
せめて先に教えるくらいして欲しい。
「済みません、奴の悪戯です」
「そうか」
「でも、若しよければ」
折角の好機である。
太宰に場を設けられたのは少し癪だが、
「今日
勇気を搾り出して告げると、難なく了承を得られた。
*
とはいえ、元から予定を組んでいたわけでもないので、目的もなく、取り敢えず街に出ることとなった。
双方とも食事は済ませていたので、何時もの通り喫茶店に入ることもなく、不思議な気分だ。
特にすることもないのだが、織田さんと隣で並んで街を歩けるだけでも夢みたいだ。
マフィアに入って大分経ったが未だ此の辺りに詳しい訳でもないので、織田さんが建物の説明をしてくれるのは有り難いと同時に楽しかった。
其処の通りで追っていた猫を見つけたとか、あの店はマフィア傘下の店で、最近夫婦の仲が良くないらしいとか、織田さんの仕事関係の話が一番面白かった気もする。
適当に歩いていたので何時の間にか元の場所まで戻ってきていた。
「大分歩いたな」
「そうですね。今お昼くらいでしょうか？」
昨日云われたので私の右腕には時計があった。だから時計を見た。
「綺麗な時計だな」
「有難うございます」
「誰かに貰ったのか？」
「よくわかりましたね。はい、芥川に」
織田さんの興味を引いた。質問に答えた。
――そして、織田さんが固まった。
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作者名：京beスウィーツ | 作成日時：2019年1月3日 1時
