102.蜆の味噌汁 ページ2
建物の外に出て直ぐ、頭痛と息切れで止まらざるを得なかった。
あ、ついでに吐き気もする。
適当に路地に入ってじっと蹲っていると、だいぶ吐き気は治まって、気持ちを落ち着かせる為に喫茶店に入ろうとでも思って歩みだしたその時だった。
「A、珍しいな」
外にいるなんて、と云ったのは、私が今最も会ってはいけない人物だった。
「織田、さん」
そうだ。
私は幸運にもこんな素敵な人とお付き合いしているのに、太宰と……何かあったのだろうか。
「朝食は未だだろう。何処か入ろう」
私の考えなんて知らずに、織田さんは近くの喫茶店まで手を引いてくれた。
とても嬉しい状況なのに、素直に喜べないのが悲しい。
何時も通り織田さんは珈琲を頼んで、食欲が湧かない私もそれに倣った。
然し、織田さんが蜆の味噌汁なんて珈琲には合いそうにないものを私の為にと頼んでくれた。
蜆は二日酔いにいいらしい。
それはそうだ。
酒を飲んだのは酒場なのだから、私の痴態は織田さんにも知れているのだ。
「織田さん、昨日は済みません」
「何の事だ?」
「いや、あの、私昨日お酒を飲んだらしいんですけど、其の後の事は余り覚えていなくて……」
必死に言い訳を考えている私に、織田さんは優しく微笑みかけた。
「気にするな。真逆酒を飲んで直ぐに寝るとは思わなかったが、お前は軽くて運びやすかった」
「え?」
「どうした?」
否、どうしたも何も……。
ああ、そういうことか。
「いえ、何も。ただ、あとで一発太宰殴っておこうと思って」
「そうか。程々にしておけよ」
私は何もマスターに管など巻いていないじゃないか!
然も介抱してくれたの織田さんじゃないか!
くそ、太宰の奴。
あれ?けど、
「じゃあ織田さんが釦とか外してくれたんです?」
「ああ。流石に着替えさせるのはどうかと思って、苦しくないようにそれだけしたんだが、不味かったか?」
「いえ、ありがたいです」
恥ずかしくもあるけれど。
「じゃあ、私の釦が一つ取れてたの御存知でしたか?」
「そういえば、一つ元から取れかけてはいたが。俺が外した時、切れたのかも知れない。済まないな」
「全然大丈夫です。私が悪いのですし」
そうか?と不思議そうにし乍らも質問に答えてくれた織田さんのお蔭で、凡て謎が解けた。
記憶がないのをいいことに揶揄ってくるとはいい度胸だ。
太宰への報復を考え乍ら、届いた珈琲と蜆の味噌汁を頂いた。
頭痛は大分軽くなった。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2019年1月3日 1時