【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ33)

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泡が八十三ページ33

「ちゃんと俺を拠点まで……送り届けろよ……」

全身ぼろぼろに成った中原が太宰の胸に拳を当て、其の儘気を失い、眠りに落ちた。

「任せなよ相棒」

彼女のこともね、と太宰は心中でのみ語る。

「信じられない……あのラヴクラフトが……」

唖然とした青年が、傷ついた腕を押さえながら太宰に歩み寄る。
組合の一人であるジョン・スタインベックだ。
組合はＱと呼ばれる少年の奪還に探偵社である太宰が来ると踏んで罠を張っていたのだが、予想外にもポートマフィアの中原が現れ、彼の異能の最終形態である汚濁によりラヴクラフトと云う同じく組合の協力者を倒された。
スタインベック自身も戦える身体ではなく、ただ彼の興味本位から、

「君達は一体」

太宰に尋ねた。

「悪い奴の敵さ」

不敵に嗤った太宰の目には、光が宿っていた。

「却説、と。本物のお姫様を迎えに行かないとね」

Ｑの後始末を終え、当然のように中原は現場に放置し、太宰は森を散策していた。
中原とは事前に連絡を(不本意乍ら)取り合っていたが、太宰は予期していたとは云え、この奇襲は当日急に決まったものであり、Aの隠し場所について彼は一切知らなかったのだ。

「うーん、如何したものか」

と悩む太宰の目の前がいきなり開けた。
足元を覆っていた草が、まるで道でも作るかのように、左右に倒れたのだ。
その道は曲がりくねり乍ら続いている。

迷う事無く、太宰は其れに従って走り始めた。
直感したのである。
此れはAの異能に依って為されたものだと。

道が途切れた先には、

「Aッ！」

「太宰！」

月下に咲く華の様に美しい女性が居た。

黒く艶やかな髪が月光を受けてより一層輝いている。

「ああ、会いたかった！」

太宰はAを強く抱きしめた。

「私もよ、太宰」

ぎゅっと抱き返されて、太宰ははにかんだ。
そして優しく彼女の身体を離し、月下で優しい口付けを交わした。

「太宰……良かった、無事で。凄い音が聞こえたから不安になったわ。中也は如何したの？」

「心配をかけたね。中也？彼は今眠りの淵だよ。起こすのも可哀相だったから、置いてきた」

「何処に？」

「彼の拠点」

真っ赤な嘘である。

「そう、なら良かったわ……太宰、私未だ信じられない。夢でも見てるんじゃないかしら」

「ふふ、此れから私とたくさん善い夢を見るのだから、慣れてもらわないと困るなァ」

「そうね、頑張るわ」

人魚姫は王子と目出度く結ばれた。