泡が六十八 ページ18
「遅い!」
「っい!」
もう日常となった中原との訓練。
Aは徐々に体力を取り戻しつつあった。
真っ直ぐに伸びた蹴り脚を中原に掴まれ、腹に一発打撃を喰らってもお返しと云わんばからに其の拳を握り、次の手を考え乍ら、凝と冷静に中原を見つめていた。
両者睨み合いの姿勢は数秒続き、
「よし」
中原の言葉で解けた。
二人は互いに構えを解き、中原は一度深呼吸を、Aは膝に両手を突きながら荒い呼吸を繰り返した。
「っ、は、もう、終わり?」
「何だ、まだ足りねェか?」
「そういう、意味じゃ、ないわ!バカ中也!」
Aが涙目で睨んでも、中原は口角を上げるだけで、Aは拗ねたように外方を向いた。
「冗談だ、そう拗ねんなよ」
「拗ねてないわ」
「はいはい。床に倒れなくなっただけ上等だ」
中原は軽くAの頭を撫でた。
Aはむすっとした表情を少し和らげて、
「じゃあ今日のご褒美は上等ね」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「お前なぁ」
「いいじゃない。未だ買いに行ってないのでしょう?」
「何で判った」
「だって甘い匂いがしないもの」
手持ち無沙汰な方の中原の手を取り、顔を近づけてみせるA。
心臓に悪い其の行為を何気無くやってのける世間知らずなお姫様に、中原は世間の男心を解らせてやる事にした。
彼女に取られた手を引っ張って、彼女を腕中に招き入れる。
「ちゅ、中也!汗掻いてるのに!」
「気にするトコ其処かよ。じゃあお前は俺の汗の臭いでも嗅いでたのか?」
「ち、違う!変な言い方しないで!もう、今日は意地悪ね!」
言い捨てて中原を押し退けようとするが、息は整ったものの(中原によって又乱されつつあるが)体力が底を尽いているAにとっては厳しい行為であり、結局腕に収まった儘、
「ちゅーやー!」
「あ?」
「あ?じゃないわ、放して」
「何でだよ」
「何でって厭だからよ」
厭という言葉に浅い切り傷を受けたが、中原は表情に出さぬ様にグッと堪えた。
「というか、何でいきなり抱きしめたりするの?」
純粋に質問をぶつけてくるAに、中原は眩暈を起こしそうだった。
自分の行為はそんなに突飛だっただろうか。
「あのなぁA、お前は……」
「で、私は何時迄待てば良いのじゃ?」
中原の言葉は続かず、凛とした女性の声が響いた。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時