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泡が六十一 ページ11

何も知らない少女に、いきなり知らない事をすべきではなかったのだ。
順序が違う。無礼で、最低で、横暴だ。


「A、ごめんな」


ポツリと言葉を漏らして、だのに又同じ事をしようとしている自分が恥ずかしくなる。
彼女は目尻に涙を溜めて目で訴える。

何が?
何がごめんなの?中也

其れを無視して、唇を細い首筋に這わす。
身体は跳ねなかったが、瞬いたAの目から、涙が一筋流れた。

白い肌に存在を主張する赤い華を、ガリッっと噛んだ。


「うっ」


苦しそうな愛しい娘の声を無視して、もう一度、更にもう一度と、同じ場所を、何度も、何度も啄ばんだ。
次第に力が強く篭り、噛んでいるというより削っているようだった。


「い、あ、くっ、うぅ……」


Aの漏らす声は逆に小さくなっていった。
それも相まって、中原はほぼ無心で其の行為を続けたのだ。

そして、声は意図的に小さくされたのだと、彼女が我慢していたのだと気づいた時には、己の唇もAの首筋も真っ赤に染まっていた。
鬱血――所謂所有印(キスマーク)というものの比喩ではなく、どろりととろみのついた液体で。


「Aッ!悪い、俺、ほんとに、どうかしてる」


慌てて異能を解き、首筋をハンカチで拭うと、血は暫くして止まった。


「中也、大丈夫。深くないから」


弱々しく腕を持ち上げて自分の頭を撫でるAに、四年でどれだけ成長したんだ、と場違いな事を思った。
自分の方が二歳上なのに、情けない。
恋は盲目ったって限度がある。

Aは抵抗しようと思えば、異能を使ってできたのだ。
僅かでも声がでるなら歌は口ずさめる。声もわざと抑えていたのだ。

――中原の好きな様にさせる為に。

血を拭った筈なのに、赤色は落ちなかった。
先に流れ出ていた血がこびり付いていたのだ。
つまりは、そうなってしまう程長い間、Aは中原に噛まれ続けていた、と云う事だ。

中原は立ち上がってAの部屋にある救急箱を取りに行った。
帰ってくると、Aは起き上がって寝台の上に座っていた。

中原に気づいてふわりと微笑んだ彼女に、きゅぅと胸が締め付けられる。

罪悪感と、彼女の儚さと、恋心。

気まずくなって、俯き加減に消毒液で処置をした。帽子は被っていたかったが、鍔が邪魔になるので脱いだ。
流れたりこびり付いていた血は完璧に取れたが、どうしても傷痕は醜く残った。
大き目のガーゼをつけると、噛み後も丁度隠れて、Aの首は白のみに戻った。

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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時

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