泡が四十七 ページ47
Aは駆けた。長い髪を靡かせて。
外に出る事の少なかった彼女には土地勘などない。
赤城に道のりも吐かせて出来るだけ先を急いだ。
太宰の焦り様から、何処か諦めの気持ちもあった。
もう、駄目かも知れない。
けれど、若しかしたら。
若しかして、若しかしたら……自身の速さなら間に合うかも知れない。
森や太宰や中原を困らせた建物内での追いかけっこは主に逃げる側だった。
罠に嵌められる事も多かったが、単純な足の速さで負けた事はない。
そんな自分が今、誰かを追いかけている事が、彼女には不思議で、苦しかった。
帰ったら、太宰も織田も無事に帰ったら。
あまり困らせるのはやめてあげよう。
だって、追う側はこんなにも辛いのだ。
追いつけるのか、不安になってしまう。
ーーだから、一緒に帰ろう、織田作、太宰ーー
前までは窓の外を見るのが億劫だった。
行けもしない世界など、焦がれても仕様がないのだ。
けど、彼に会ってから、織田に会ってから、外で会う友達が出来てから。
此方に来やしないかと、彼方に行けやしないかと。強く思う様になって、厭な事から目を背けるのではなく、じっと見据えて先を待つ事を覚えた。それが楽しい事も知った。
織田作。
貴方は優しい人だ。
何処か遠くを見据える貴方の瞳は、吊り目がちで鋭い印象を与えるけれど、その実とても柔らかい。
貴方の眼差しが私には心地好かったの。髪も褒めてくれたね。
貴方は私の事を知ってるけれど、私は知らない事がたくさんあるから、もっと知りたいと思うから。まだまだ仲良くして欲しいの。そして今度は私が貴方を褒めるのよ。
だから、未だ其処に居て。
太宰と共に。
「織田作ッ!!」
何処かに、行ってしまわないでーー
「……A、悪い子だね」
死兵を踏み越え辿り着いた洋館の広間に、太宰が一人立っていた。
右目の包帯を解き、何かを見据えた瞳を湛えて。
「太宰……?織田作は、如何、なったの」
「A、落ち着いて」
「やだ、やだ。ねえ、太宰、やめて、離して。見えない」
太宰がAを腕に抱き込み、ゆっくりと言葉を掛けるが、彼女の胸騒ぎは収まらない。
呼吸が荒くなり、目に涙が浮かぶ。
「見なくていい。今は、見るべき時じゃない。わかるかい。落ち着くんだ、A。そんな荒れた心で見るものじゃないよ」
「無理。如何して、太宰は如何して落ち着いていられるの。私、織田作を見れる迄落ち着けないッ」
太宰を突き飛ばし、眼前にあった光景は
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京beスウィーツ(プロフ) - おきリンゴさん» 済みません。存じ上げなかったので、調べさせて頂きました。まどマギの登場人物なのですね(違ってたら済みません!)。そんな立派なお話しは書けませんが、また見て頂けたら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年9月17日 18時) (レス) id: 35074ef1fd (このIDを非表示/違反報告)
おきリンゴ - 人魚姫… さやかを思い出してしまった… (2017年9月13日 22時) (レス) id: 8fe98c431a (このIDを非表示/違反報告)
京beスウィーツ(プロフ) - マイさん» コメントありがとうございます。面白いと思って頂けて嬉しい限りです!更新は遅くてご迷惑をお掛けするかも知れませんが、最後まで頑張りたいと思います。応援ありがとうございます! (2017年6月25日 11時) (レス) id: 35074ef1fd (このIDを非表示/違反報告)
マイ - とても面白くて更新楽しみにしてます!これからも頑張ってください!! (2017年6月17日 8時) (レス) id: 1068f74b75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年4月2日 17時