ワンコとボクのあいだに。 (ページ32)

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ホンマにたまたまやった。

人通りの殆ど無い廊下を歩いてたら、用具庫から聞こえてきたやけに息の上がったオトコの声。
通りがかっただけやから勿論聞くつもりも無かったし、そんなトコに誰かいてるとすら思わへんかった。

『…もっと』

『ちょ…』
『誰かに見つかったらオオゴトやん？』

『アカンの？…なぁお願い』

『…あとちょっとだけ』

…誰？
一体この中で誰が何してんの？

会話に引き寄せられて。
少し…いや圧倒的に自分の中で好奇心が勝る。

誰も頼んでない見張り役を買って出ると、稀に通行する人が用具庫へ目を向けないよう咳払いなんかして、こっちへ気を引かせた。

それにしても…。
聞いた事ある声やな、とは思うた。

けど、まさかこんなトコで？とも思うた。

それから暫くして扉が開いたから、物陰に隠れ覗き見る。

出てきた仲睦まじい2人の姿から、声の主の疑惑が確信に変わった。

『…独りでちゃんと帰れるか？』

『うん』
『ぁ…よこちょ今日はバイトやん』

『んじゃ、晩メシ作って待ってる』

『ふ』
『終わったらオレもすぐ帰る』

何も無かったように。
普通の恋人同士の会話が交わされながら、用具庫から立ち去った。

そんな出来事があったもんやから。
ひょっとしたらさっきの打ち合わせって…とか。
僕らより先に出たのって…とか。
つい偏った方向で考えてまう。

それにしても、黒髪ショートと銀髪アシメの後ろ姿。
一見不釣り合いに思えるけど、2人に至ってはサマになってて見惚れてまう。

いつか僕にもそんな人が…。

……

…いや。
今の僕には、この願望を叶えるのって皆無に等しい。