紅の影を2 (ページ25)

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73.震えページ25

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聞きたくなかった一言に、見れなかったはずのその綺麗な顔にようやく視線を合わせた。息を呑んでしまうほど、穏やかな顔付き。たった今、俺に自分を殺せだなんて言ったとは思えないほど、優しい顔。

俺の方が泣いてしまいそうだった。

少し前、チャニョルをこの物陰で見つけた時。

『(…うそ、だろ、)』

俺は、自分がしなければならないことを悟った。

装置なんかで測らなくてもわかるほど力を使いきっていて、硬く銀色に変色した足じゃここから動くこともかなわない。だれが、一体こんなことを？周りには敵らしき人物も見当たらなくて。

腹の深い傷はかなり痛そうで、手当てするにも直視することを躊躇ってしまう。隊服を着ているというのに、こんな深い傷を負うなんてなにがあったんだ？状況を把握しようとしても、どうにも頭の理解が追いつかない。

焦げ臭いあたり一面は、目の前で倒れているやつが命がけで戦った証で。わかっているのに、理解しているつもりなのに、たまらなく吐きそうだった。

俺1人じゃどうにもできない。そんな状況は初めてで。クリムさんに連絡しようにも、少し前からウォッチは使えない。こんなの、クリムさんでも治せるかどうか怪しいのに…。

『…なに、言ってんだよ、』

「なにって…、お前が覚えてないわけないだろ。紅の…、いや、俺たちEXOの‘たとえ死んでも守らなきゃいけない決まり’だよ」

『…、』

俺たち紅には、決まりがあった。

現実に起こりうるとは思ってもみなかった、残酷な決まりが存在する。

それを遂行しなければならない現状がここにあるなんて、誰が予測できただろう。

『…そんなの、』

「早くしないと、」

俺の言葉をわざと遮って、チャニョルはガサゴソと俺の腰を探る。なにを探しているのかなんて聞かなくてもわかった。力ない手つきに我慢していた涙が溢れてしまいそう。

『やめろよ、…チャニョル、』

「…、」

『そんなの、そんなの…、』

グッと涙を堪えてそのゴツゴツとした大きな手を掴む。バカなことはやめてLMRに帰ろうとそう言いたかった。だけど、そこでようやく、彼の手が震えていることに気づいた。

そんなこと、当たり前だったのにな。

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