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前回のあらすじ
全然テニス部に見えない。
｢全然テニス部に見えない｣
｢素直やなぁ｣
｢全然テニス部に見えない！｣
｢ええてもう一回は｣
力強い否定に失笑する忍足くん。
何度見たって全くそうは見えなかった。全体的な雰囲気だろうか。周りの子より数段落ち着いている彼は、動きのひとつひとつが緩慢で、だらけている印象は受けないのに、どこか気を張らないでいられる。
比較的長い髪が目元に影をさして、眼鏡も相まったおかげか表情が読みにくい。
｢自分、うちの部活見学にでも来る？｣
｢うーん｣
言い淀むと、まあ強豪のマネなんかやりたないわな、と一人納得する忍足くん。
｢違う違う……軽音部ってある？｣
｢軽音部？あー……去年まであった気いするけど、中等部のは消えたんちゃうかな……吹奏楽部ならある｣
｢ないんだ。困ったな｣
｢楽器やるん？｣
｢歌いたいの。ギターもちょっとくらいなら弾けるし、なんとかなるかなって思ってたんだけど｣
｢へえ、ええやん。同好会ならあった気いするで。発足したら部なるんとちゃうか｣
｢そうだね｣
返事をしたものの、私は彼の話を真に受けたから肯定したわけではなく、単に別の思考に頭を支配されていた。
もし軽音部を立ち上げて、それじゃあバンドを組もうなんてなった時に、私はとてもじゃないが一人だけ浮くのではないだろうか。
その空気は随分と洗礼として受け取っている。現状がこうだ。軽音同好会にあまり希望が持てることは無いだろう。
殊更グループだとか複数人の居る場での私は、縮こまって心の壁を貝のように隙間なくぴっちりと閉じ、愛想笑いに飲まれ、介入する間もなく話が決まっている。
そう言うのがこの人にはないのか。
突如スっと腑に落ちた。
ぼんやりと人の話を聞いていないような顔をしながら、考え中の私をじっと待つ彼は、捲し立てたり、話を即決させる気は無いらしい。
｢一回テニス部見に行ってみる｣
｢ええの？軽音部作るのは早い方がええんとちゃう？｣
｢頑張って夏休み前にはカタつけるよ｣
｢……まあ、自分がええならええわ｣
続く
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作者名：経ロ | 作成日時：2021年7月20日 2時
