2 ページ2
(金に)余裕あって、という文字がうっすら見えた気がしたが、まさかそんな拝金主義にものを言わせるブイブイの人間はおるまい。
｢ハーッハッハッハ！快気祝いだ！｣
いた。
｢跡部、それはありがたいんやけど、これなんなん？｣
｢見てわからねえのか？俺様からお前へ祝いの品だ｣
｢いや病み上がりにこないな重い脂物出すやつがあるか｣
｢何言ってんだ、配慮してねえわけがねえだろ。脂肪分ハーフカットだ｣
｢要らん気配り見せなや｣
｢照れなくていい｣
ハン、と鼻で笑う彼の横で、忍足くんは、堪忍な。と薄ら笑いで私に会釈した。
飲み込めていない事態に頭は回らない。思わず会釈を返してしまった。
彼の後ろの大きな人はワンホールケーキを持っている。
｢転校生のAだな？｣
｢え、あ、はい｣
｢随分遅かったじゃねえか。待ちくたびれたぜ｣
｢迷子やったって｣
｢そう言えば、お前の家は他と比べて遠方だったな。確かにあの道順を一回で覚えるのは普通は無理だろう｣
｢え？ええ、まあ、そうです｣
要領を得ない私の返事にもスラスラと話が進んで行ってしまう。何故名前を、何故家との距離を、そんな疑問を挟む間もなく、彼はにっと快活に口角を上げた。反して姿勢と声色はだるそうである。
｢跡部景吾だ。生徒会長であり、全校生徒のプロフィールを把握している。今日から生徒となるお前も含めて｣
｢全校生徒？ってこの学校、確か｣
あまり明瞭に考えたくはない数だったはずだ。
｢当たり前だろ？俺は跡部景吾だ｣
｢そういうことやって飲んどいた方がええで。突っ込んどるとキリないからな｣
なんだか腑に落ちないと言いたいところだが、この自信に満ち溢れ堂々たる面持ちの跡部くんは妙な説得力があった。カリスマとも言うべきか、自分でもこんな感覚があるとは思わなんだ。少しの疑問をものともしないその、なんと形容するべきか、信頼だろうか。とにかく、そういったものに類似した感情を私は彼に抱いた。
初対面の怪しい人物に湧くべきものではないと、自分でもわかっている。
案外自分はチョロいのかもしれないな、なんて要求された握手に応じた。
たくさんのまめと分厚い皮膚で覆われた手は、私の手など木っ端微塵にしてしまえるんじゃないか。なんて不安が過ぎる。
そんな愚かな疑惑はかすりもせず、白い歯を見せて笑う跡部くんは私と視線を合わせて、そして小声で囁いた。
｢事情は聞いた。何かあれば言え｣
淡い水色が、ブレずに私をじっと見据えていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：経ロ | 作成日時：2021年7月20日 2時
