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まともな人間は、午後二時日差し真っ盛り、照り返し最大、温度の最も高いこの時間に外を出歩かない。
陽炎は視界の先でゆらゆらと地面を歪めている。
拭ってもキリのない、玉のような汗をパタパタと滴らせ、私はこの地で有名な殺し坂を歩いていた。
殺し坂。
通称である。正式名称は……なんだったかな。
さておき、急勾配に自転車走行が困難と見なされているその坂は、私の歩行ですら阻むのであった。ゼエゼエとまでは行かぬとも息を上げた小娘の私に、少年が声をかける。
｢……大丈夫ですか？｣
｢ええ、まあ、なんとか｣
真夏だと言うのに上まできっちりボタンを閉めたシャツを身に纏う彼は、度の入っていないメガネの奥から私を見つめた。
｢ほんまに？なんやめちゃめちゃ……しんどそうに見えるけど｣
｢道に迷いまして、朝からずっと｣
｢……朝から？｣
そう、朝から。
目を見開く彼の視線から逃れたくて、ささやかな抵抗に顔を背ける。
｢なんでそない……うちの制服着とるのに知らん顔やし｣
｢転校生です。学校、どこにあるのか見失って｣
｢いやすぐそこやで｣
｢マジですか？｣
｢マジや｣
そう言えば、ここにやって来た日、私を乗せた車はこの坂を降りていた気がする。だから私はこの坂の名を知っているのだ。
運転手のおじさんが、ここを歩いて通るのはオススメしないなあ、殺し坂っつってね、なんて言っていたのを思い出す。
坂の断片的な記憶は今、この瞬間に、ありありと情景が浮かぶ程のものへと昇格された。
きっとこの先忘れられないだろう。
そんな道を真っ直ぐ登って、とうとう先が見えると顔を上げると、大きな学校が見えた。マンモス校と言われるだけあり、生徒数に応じて校舎はバカでかい。
敷地面積も広く、入口に辿り着くにはまだ歩かなければならないようだ。
大きなため息を漏らした私に、彼は苦笑した。
忍足侑士と名乗ったその少年は同学年で、｢この学校に転校生なんて珍しいわ。エスカレーター……どころかエレベーター式の学校やから｣なんて話してくれた。
そうだったのか。
大人に任せてあれよあれよと決まっていたし、そんな決定に口を出すほど気力の無かった私には、氷帝学園の情報などでかい高いすごいくらいしかない。
転校生が珍しいなら、少し注目されるのかもしれないな。と途端にそわそわと指の先を合わして、視線を泳がす。
｢緊張しとるん？｣
｢それはまあ、大分｣
｢はは、まあ余裕あって温厚なやつ多いから、あんま気にせんで大丈夫やで｣
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作者名：経ロ | 作成日時：2021年7月20日 2時
