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どこに向かって歩いているのかもわからなかった。それは勿論彼女もだろう。
ただ、ゆっくり歩いた、どこかで曲がることなく真っ直ぐ歩いた。
君が何者かなんて分からないし、君もオレが何者かなんて知らない。
この瞬間ではそれが心地よかった。
それに君は、オレと同じみたいだった。
目を見たときなんとなく感じた。
だから、オレが今何かに怯える必要はなかった。
だんだんと風がまた強く吹いてくる。
彼女の手は冷たくなっていた。
体温を奪ってしまったようだった。
いつの間にかオレより冷たくなってしまった手を、いまだに冷たい自分の手でもう一度包み込んだ。
弱く握り返された小さな白い手を見てふと今更思った。
オレは今、とても恐ろしいことをしているのではないか。
ジェヒョンという人間の、今とっている行動が誰かに見られること。
それは、オレが最も恐れていること。
だけど…
「連れて行って」
「連れて行ってほしい」
真っ直ぐ歩いてきた二人は、ここで初めて立ち止まった。
「もう、戻れないんだ。」
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作者名:椿 | 作成日時:2021年9月20日 21時