街灯の下で愛を探す (ページ1)

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一灯　ランプライターページ1

時は19世紀、ロンドンｰｰ

貧民から貴族までさまざまな人々が闊歩する、賑やかなジャルドーレ通り。
そんなジャルドーレが黙りこむ、シンとした時間の午前４時。

俺の仕事は始まる。

ルートは通りをぐるっと一周。それが長年の決まりきったコース。
軽く二時間はかかる。まあ慣れた今では散歩のようなものかもしれない。

そんな散歩コース、ジャルドーレ通り。濃い霧がかかって悪い視界。暗闇は明ける気配を微塵も見せない。
そのなかでぼんやりと、橙は光る。
まるでオレンジの綿のよう。規則正しく並ぶ綿たちは、俺の視界の中でただひとつ色を持ち存在を主張する。

この静けさが好きだ。

けれど明けない夜はない。人々が動き始めるその前に、全ての街の灯りを消そう。そして夜にはまた点ける。これが、俺に課された義務。

重い梯子を抱えて歩く。
ジャルドーレを端から端まで見歩くこの仕事だからこそ、色んなものが見える。色んなことが聞こえる。色んなことを考える。

この通りは、とてもあたたかいこと。
愉快なこと。
少し、さみしいこと。
色んなことを思いながら歩く。

それでも、仕事は素早くこなすこと。ノロノロしてると夜が明ける。

○●○●○●○

9割方消し終わった6時頃。
ぽつぽつと人が現れ始めた早朝は、少しずつ暗さが動き始める。

丁度橋に差し掛かった所で、橋の街灯の下に人を見つけた。
俺には気付いていない様子でゴソゴソと動いている。

……困ったな。何しているんだろう。危ないことに首を突っ込みたくないなと注視してみれば。
その人影は、小柄な少女だった。

路上にしゃがみこんだ彼女が黒い塊から何かを取りだし、首に挟む。
独特なフォームを見ると、すぐに何かわかった。

「(ヴァイオリンだ…)」

すっくと立った彼女がいるのは、俺の消すべき街灯の下。

彼女のためのひかりのように。
オーケストラの舞台のように。
灯りは小さな彼女を包む。

街灯の微笑むその下で、彼女は弓を滑らせた。