殺し屋彼女は振り向かない【2j3j】 (ページ10)

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向いてないページ10

カラン、と乾いた音がした。
元々大きな目を更に大きく見開いて
ついでに口もあんぐりと開けたままの伏見が不自然な姿勢で固まっている。他の面々も驚いた顔をしていて、滅多な事では驚かない黛ですら目と眉の距離が僅かに離れていた。

好きだった、と言ってももう5年以上の前の話。
彼は私がまだ駆け出しの頃出会った男で、恋愛経験の無い私は甘い言葉にコロッと落ちてしまった。自分でも死ぬほどチョロいと思う。
その後はトントン拍子で交際し、同棲を始め…
満たされた気になっていた。
それが利用されているとも知らずに。

｢そう…でしたか｣
『露骨に気まずい顔しないでよ。
もう好きでも何でもないし』

ぎこちなく頭を下げる加賀美の脚をテーブルの下で蹴る。バカにされると思っていたから言いたくなかったけど、こんな形で気を遣われると逆にプライドが傷つくのだ。いっそ笑ってくれた方がマシまである。
浅めの傷で終わらせたくて
これで話は終わりだろうと椅子を引いたが、
夢追がそれを止めた。

｢じゃあどうして殺せなかったのさ｣

ギクリとした。
どうして…どうしてだろう。
あんな男もうとっくに忘れていたと思っていた
だけどいざ対峙した時、私は彼を始末できなかった。情なのか、驚きなのか。

｢未練があるんじゃないの？｣

確信を突く一言で指先の血管が縮こまるのを感じた。ミレン、と言う音を理解するのに脳が回転を遅める。薄々分かっていたそれを他人に言語化されるとキツいものがあって、私は思わず下を向いた。

『……』

咎めているつもりは無いと思う。だけど既に脆くなっていた私の心はその一突きで簡単に悲鳴をあげた。

『ｯうﾞ…』

すぐ泣く奴は嫌いだ。
男でも女でも、例えそれが自分であっても。
それでも止まらない涙に嫌悪感が私を責め立てた。何に泣いているのか私にも分からない。
未練のある自分が情けないのか、はたまた図星を突かれた戸惑いなのか。
慌てて立ち上がる彼らに顔を見せないように廊下へ出た。自室の扉に鍵をかけベッドに飛び込む。自分でも自分がどうしたいのか分からない。ドッと襲ってきた疲れに呻き声を漏らした。

明日、起きたらまず謝ろう。
それでいつもの仕事を終わらせたら
アイツの始末計画を立てなくちゃ。

やけになった心で無茶苦茶な予定を立てる。
荒れる脳内に、つくづく恋愛は向いてないなと独りごちた。