尋問 ページ9
静かな食卓に社長のよく通る声が響いた。思わず彼の方を見る。座り直したAちゃんが渋々と言った様子で頬杖をついた。
こんなピリついた空気だが質問内容は「こないだの男誰ですか?」だ。めちゃくちゃ間抜けな響きなのに、この組織に入って一番の緊張感である。
「以前、仕事中取り逃した方の事です」
『…』
「皆さん曰く
その方は貴女と親しいようでしたが、
彼とはどういったご関係ですか?」
『…向こうと繋がってないよ。
裏切るつもりもない』
「その証明の為に何が必要か、お分かりですね?」
鋭い眼光にAちゃんは焦り顔で言葉を紡ぐ。先手を打ったがそれで話は終わらない事を理解したようだ。いくら彼女と言えど尋問モードの社長の視線からは逃れられない。
「仕事は仕事ですから。貴方が失敗した皺寄せは貴方に来ます」
『そんなの分かってる』
「ですがまた貴方が取り逃がした時、
今度こそ我々は貴方を信用できなくなる」
『…』
淡々と告げる社長にAちゃんは俯いた。可哀想だがこればっかりは口出しできない。心の中ですまんと手を合わせ言葉を待った。相変わらず厳しい口調で社長が続ける。
「教えて頂けませんか?彼を殺せない理由を」
『…』
「Aさんを守るためだよ。
皆意地悪したくて言ってるんじゃない」
ふわりと軟らかな声でかなかながフォローにまわった。包み込む視線に言い逃れはできないと観念したんだろう。やがてAちゃんは苦しそうに口を開いた。
『私の、好きだった人…』
その言葉に、俺達の空気は一気に凍りついた。
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作者名:かんか | 作成日時:2023年12月11日 16時