来客 ページ6
突然鳴り響いた高いベルの音で思考が遮られた。ぶつくさ文句を言いながらギルザレンが玄関へ向かう。それを目だけで見送って、私は再び手元のクッキーに視線を戻した。
「はいはい、どちら様ァ?」
重い扉を易々と開ける音がする。訪ねてきた相手の声は小さくて聞き取りずらいけれどどうやら男性のようだ。拠点の内の誰かが捜しに来た可能性も捨てきれなくて、見ようにも見れない。
「…ここには居ないけど」
黙って相手の話を聞いていたと思えば途端に低くなったギルザレンの声にギョッとした。
「二度と来るんじゃないよ。死にたくなきゃね」
バタン!と未だ嘗て無い強さで扉が閉められる。一体何事かと振り返れば不機嫌そうに眉を顰める吸血鬼。たくわえた髭を摩り大股で私の方へやって来る。
「さっきのニンゲン、<A居ませんか>とか言ってたけど帰したからね」
『え…私?』
「こーんな長い蝙蝠みたいなコート着ちゃってさぁ」
大袈裟なジェスチャーのそれには心当たりがある。絶句したまま何も言えない私に彼が続けた。
「バンパイアより血の匂いするんだよ?
気味悪いから返しちゃった」
そこまで言って私の隣へ腰掛ける。表では飄々としているが人の好さが隠せていない眼差し。まるで本当の孫になった気分だ。
「今日は特別にバンパイアが送ってったげる」
『…一人で帰れるよ』
「また遊びに来たいでしょ。
バンパイアも暇潰し相手に何かあったら困るしさぁ」
『でも』
「家主の言う通りにしな。ね?」
ポケットのナイフを服の上から探る手を彼が止める。有無を言わさぬ優しい圧に渋々頷いた。何だかんだ言って思慮深いその吸血鬼に頭が上がらなくて、私にしては珍しく罪悪感に駆られていた。
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作者名:かんか | 作成日時:2023年12月11日 16時