殺し屋彼女は振り向かない【2j3j】 (ページ5)

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オアシスページ5

｢はーん。それでバンパイアのとこ来たの？｣
『うん。何か居ずらくて』

血の様に真っ赤な紅茶を注ぎながら
ご長寿吸血鬼が｢馬鹿だねぇ｣と呟く。
1人が住むには広すぎるこの屋敷とおじいちゃんみたいな雰囲気の家主は、最早私のオアシスとなっていた。興味がありそうで無さそうな彼ののらりくらりとした言葉は案外心地好い。見た目と声のギャップに最初は面食らったが、今では低い声を出されると逆に落ち着かなくなった。

｢ま、好きにしなさいよ。
ほらお前達！お客様にお菓子はどうしたのさ！｣
『あ、ちょっといいって！』
｢良くないよ？またそんなに痩せちゃって…バンパイア見てらんないよもう！ねー？｣
『…もう』

彼がパンパンと手を打つと、沢山の蝙蝠が一斉に飛んできた。黒い幕になった彼等はやがて消えていき、代わりにテーブルには大量のお菓子がある。
こんなに要らないといつも言っているのに彼は何かと理由をつけて絶対に譲らないのだ。自分では出さないのに蝙蝠を使役するのも毎度逆さまで登場するのも、威厳を保つため…らしい。

机上のクッキーを1つ摘み齧る。サクリと音を立てて脆い生地が崩れた。

…帰りずらいなぁ

クッキーが食道を通っていく感触にボーッとしながらそんな事を考える。皆の気遣わしげな視線を思い出してまた憂鬱な気持ちになった。こうさせているのは自分なのに、放っておいてほしいなんて傲慢な考えが消えない。