殺し屋彼女は逃げ出したい【2j3j】

しがらみ ページ39

下がる体温に抗い必死に身体を擦った。できるだけ風に当たらないように小さく縮こまる。ただぼーっと掌を見つめていたが、不意に短い爪が目に止まった。

ボロボロになっちゃったな

昔は形や色を綺麗に整えていたが、度重なる仕事の連続でそんな余裕は無くなっていった。訳あって綺麗な格好をする時は決まって手袋か何かで手を隠す。そうやって逃げて隠れるのが当たり前になっていた。見苦しい隙なんて誰にも見せたくないから。

髪と手は女の命だと母さんが言った。その言葉はまるで呪いのように私の一生に纏わりついている。女らしくあることに執着して、手は早々に諦めてしまったがこの髪だけは伸ばしていた。


ままならない

あっさりと棄ててしまいたいのに
一度触れたものはどうしても手放せない

一番なりたい私にはどうしたってなれない

昔から治らない、私の無駄な癖

無駄が多いから付け入られる

父さんが見たら何て言うだろう

母さんが見たらきっと失望する

こんなんじゃダメだ、こんなんじゃ

『ダメだ…』
｢何がです？｣


中低音が鼓膜を震わせた。
突然聞こえてきた声に勢い良く振り向く。


｢何がダメなんですか？｣


絞り出すような声。


若菜色の瞳を揺らして
剣持はそこに立っていた。

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