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降谷.side



残る気がかりは彼女の存在である。
あんな状態で居たのに、何故母親は気付かなかったのか。
そう電話越しに質問をすれば、女性は困惑したように「私に娘は居ません」と。彼女を否定した。夫に同じ質問をすれば「ただの道具だ」と喚いた。


…つまりは、こういうこと。

彼女は嫁が居ない時の道具で、何年か前に施設から引き取ってきたらしい。彼女に与えた部屋はまだ幸せだった頃に描いていた、子供用の部屋。
夫は彼女の存在が嫁にバレないように、彼女を恐怖で黙らせ、世間から隠していたのだ。



彼女は俺を見て「なんでここに?」と言った。
何もかも諦めた表情をして、か細い声で、真っ黒な瞳に俺を映して。

彼女は、確かにそう言った。


あの表情を思い出すと、夫への嫌悪感ばかりが募る。元とは言え、仲間なのに殴りたいくらい。



「(ほんと……吐き気がするな)」



きっと大した食事も教育も、愛情も。
人並みに与えられてこなかったはずだ。
暗闇で1人、痛みと孤独に戦ってたはずだ。

壁に染み付いた赤黒いものを手袋の上から撫でて、なにもしていない方の拳を強く握った。




__俺は、彼女の力になりたい。

___彼女のことを守ってやりたい。



____愛をしらないあの子を、愛してやりたい。

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作者名:-naki- | 作成日時:2018年5月10日 15時

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