人生とは甘美である。4 Jun.M (ページ33)

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その女性は50代半ばというところだろうか。
か細くて、色が白くて、みるからに昔セックスシンボルでしたと言わんばかりの色っぽさを醸し出していた。

「久しぶりね」

「…戻っておられたんですね」

そう言葉を返す潤を見て私は驚嘆した。
いつも強くて勇ましい姿の潤ではなく、瞳は動揺を表すように大きく揺れ、息をしづらそうで、…そしてテーブルの上に置かれている手が小さく震えていた。

まるで昨日ランニングから帰ってきて私を見て抱きしめた時に見せたような、あの怯える姿だった。

「ええ、そうなの。
先月の終わりにこっちに戻ってきたのよ。
まさかこんなところで会えるなんて、嬉しい」

彼女はそう言うと震えている潤の手に自分の手を重ねた。
やめて、潤に触れないで。
私の中でそれは単なる嫉妬ではなく彼を守りたいがためにそう思った。

どういう関係なのかもちろん気になるけれど、こんな怯えている彼のことだ、きっと私に問われても答えなかった過去の一つだと瞬時に悟った。
　

彼女が一瞬私を一瞥する。
その視線に気づいた潤がその気まずい場を取り繕うように、

「…こちらAさん。彼女なんだ」

「あら、そう。
可愛らしい方ね。
月島紫と申します。
彼の、潤くんの家庭教師をしていたの。
もうだいぶ昔のことだけど」

そう言えば潤の実家にお邪魔した時お父様がそんなことを言っていた。

「初めまして園田Aと申します。」

頭を上げた時、彼女の視線に私は恐怖を覚えた。
私のことを…憎いと言わんばかりの目で見ていたから。