人生とは甘美である。4 Jun.M (ページ24)

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私はお手洗いで乱れた髪とメイクを少し直し、オフィスへ戻った。
本当昼休みに何してるんだろうと呆れながらも、
スリリングな体験が頭から離れなくて。
いつだって潤の手にかかれば私は自我をどこかに置いてきてしまう。

潤がボストンから帰ってきたその週はやはり忙しそうでとても疲れていて、ゆっくり話す時間を持てなかった。

ようやく週末の夜に潤に話があるといって声をかけた。

「どうした？」

「…これ」
と封筒を渡す。

潤は中身を見て、
「何で…金？」と怪訝な顔をした。

「払ってもらった借金」

「は？」

「肩代わりしてもらったからには返すつもりだったから」

「いや、あれは俺が代わりに払うっていう約束だったじゃん？」

「…そうかもしれないけどずっと借りたままなのは嫌なの。
それとも今も……私と契約してるって思ってる？」

「思ってねぇけど、でも」

「なら、お願い。受け取って」

私が引き下がらないことが伝わったのか、潤は目線を落とし、
「それじゃあ、お前は…」
と小さな声でつぶやいた。

一瞬にして潤の目に影が宿ったのを感じた。
そこへは踏み込めないような…何かを。

「ごめん、何て？」

「なんでもない。
…分かった。これは受け取るよ」

その日から私たちは相変わらず愛を囁き合うものの、どこか心にわだかまりをお互いかかえていた。

その核に触れることができず。
見て見ぬふりで。

今までずっと浮かれていて、その浮わついた感情に水を浴びせられたような、そんな気分だった。
氷水のように冷たくてすべてが覚めていくものを。