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「買えた？」
「うん、買えた」
「後で見せてよ」
「大したもの買ってないよ？」
「それでも」
「ん。…スーツ買うの？」
「うん。近くボストンにまた飛ぶから、ちょっと新調しておこうかと思って。
どう？」
聞かなくたって。
自分でも気づいているだろうに。
眩しいほど似合っている。
きっと彼にしか似合わないし着こなせないなんて惚気てしまうほど。
「うん、似合ってる」
「そう？
じゃあ…これとさっき試着した2つもお願い」と黒いカードを店員さんに渡した。
ネクタイであれだけの値段なのだからスーツ1着で相当な値段だろうに。
それを一気に３着も買えてしまう彼と私の立場の違いというものを改めて見せられた気がした。
ウチの会社の歴史を見ると潤の頭脳と決断力がいかに優れており、そしてたった１０年でここまでの成長を成し遂げてしまったその力に時々怯えることがある。
それを気づかれないようにしてはいたけど、見えない闇がまた私に襲いかかる。
会計待ちのときにふと後ろから潤の匂いが漂ってきたのを感じた。
タバコのほろ苦さと甘い甘いバニラが混ざった香りが。
後ろを見るとたくさんの瓶がショーケースに並んでいた。
手に取ると香水だと分かる。
(…ここの香水使ってたんだ)
「どれか気になる香りなどありますか？」
今度は綺麗な女性の店員さんが話しかけてきた。
「あの、このタバコとバニラの合わさったような香りはここの香水ですか？」
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作者名：Clara
| 作者ホームページ：https://www.instagram.com/st.clara.6/?hl=ja
作成日時：2021年5月4日 15時
