人生とは甘美である。Jun.M (ページ28)

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「羨ましい？」

「はい…」

松本さんをチラッと見ると、唇が弧を描いて、微笑んだらしく見えた。

どういう笑みなのか、分からないけど。

でも必要以上に聞かれないのは私の中で安心した。

私はいつの間にか……さっきまで逃げ出したくて仕方なかったのに、今はこの空間に少しでも長く浸っていたい、そう感じていた。

「……。ウチはこれから先もっともっと広い視野であらゆる世界を広げ、挑戦していきたいと考えてます。
その中の一つに小説も入っています。
その時はぜひ園田さんの、その感性を頼りにしています。」

「いえ、そんな…。っ、でも頑張ります」

「はい。よろしくお願いしますね。」

座りながら手を合わせ頭を下げた。

「……。」
「……。」

再び沈黙があったが、どうやらこれで話はひと段落ついたように松本さんが立ち上がったので私もつられて立った。

「どうぞ」とドアの方向に向かってジェスチャーをされたので出口へ向かう。

出る前に再度振り向き、

「お時間割いていただきましてありがとうございました。」

と頭を下げ、ドアノブに手をかけたときだった。

「またね、雅さん」

と後ろから甘く痺れる松本さんの声が、言葉を発した。