33. 二人の、少しの真実。 ページ35
「聞いたよ。大変だったな。」
コーヒーはどうも苦手で、と話す山口さんに連れて来られたのは、自動販売機コーナー。
何故かよく似合う、甘そうなオレンジジュースのプルタブをあけながら、俺に言った。
「もともとな、ヘッドハンティングってのは、ヤッカミやらなんやらで、疎まれやすい。おまけに見た目も腕も超一流ときたら、な。」
「だからって、鬼まで言わなくたって。」
やっと口を開いた俺。
「それに、迷惑だとか、お荷物だとか... 」
「櫻井に何も言えないぶん、大野にまわるんだろうな。」
「そんなの！お門違いじゃないですか！第一櫻井さんも大野さんも、誰よりも仕事が出来る人です！すごいです！誰よりも、飛行機が安全に飛ぶことを願ってる。そんなの、側で働いてる人達がいちばん知ってるだろうに！」
思わず熱くなる俺をじっと見つめる山口さん。
「俺が呼んだんだ。二人を。」
「はっ... えっっ？」
またも降りかかる衝撃の事実。唖然とする俺に、
「俺が研修に行ったときに知り合ったんだ。もうな、かないっこないくらい、何もかもがピカイチで。技術だけじゃなくて、心意気ってゆうのかな、空が好きなんだって、痛いほど伝わってきた。
だから...その人材を失うのは、もったいなくてな...こっちに呼んだんだ。上としても、あんな腕のいいパイロットは喉から手が出る程欲しい。その時に、どうしても大野が一緒じゃないと、話を受けないと言われてな。」
「大野は既に聴力を失ってて、話すこともできなかった。最初はもっと、厳しかったよ。そりゃ、聞こえない話せないじゃ、どう考えても難しい仕事だ。露骨にあったよ、仕事わざと回さないとか、いろいろ。」
「一つ一つ乗り越えて、やっとここまで来たんだ。だから、俺はお前みたいなヤツがいてくれて嬉しいよ。潤も。バカみたいにあの二人を、すげーって言うヤツがいて。」
時おりオレンジジュースを口にしながら、少しずつゆっくり、確かめるように話す山口さん。
何も言えず、聞いていた俺。
やっと正気に戻った頃には、ずいぶん時間がたっていた。
「あの...失いたくない人材ってどうゆう... 」
俺の言葉が聞こえたのか、聞かないふりをしたのか。
「そろそろ時間だ。二宮、お前は今のままでいろ。それが多分、何よりの力になる。」
立ち上がった山口さんは、未だ複雑な思いを隠せない俺に、優しい顔で、強い瞳でそう言うと、オペレーショセンターへと戻っていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1441人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
櫻宮 - 大野さんの繊細な心と翔くんの強い気持ち…それを優しく見守る3人が何だか"ほっこり"して凄く好きです！mioさんのお話もっと読みたいです！！ (2019年11月7日 12時) (
レス) id: 95d5f07b44 (このIDを非表示/違反報告)
リカ(プロフ) - こんにちは。先日、旅行に行って参りました。機内から空を見ていたら、もう一度物語が読みたくなりお邪魔させていただいています。2人の物語、5人の物語、幸せな気持ちになります。 (2017年9月4日 22時) (レス) id: c3477e2eb7 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - 沙羅さん» 沙羅さん。コメントありがとうございます。ふあふあ大野さん、感じて頂けて嬉しいです☆これからふあふあじゃない彼も、しょーくんとの揺るぎなさも、お届け出来たらなと思います！ラストシーズンまでぜひ、お付き合い頂けたら嬉しいです(^^)よろしくお願いしますっ♪ (2015年3月18日 9時) (レス) id: b1673f9bd6 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - 大野さんのあのふあふあかん最高です！櫻井さんの過保護な感じにきゅっときますね、笑色んな関係が見え隠れしてて読むのとてもわくわくします (2015年3月17日 10時) (レス) id: ca60bde7d3 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - えりんこさん» えりんこさん♪お返事遅くなりすみません(;_;)ありがとうございます。嬉しいな。麗しの青さんだなんて、ほんとに嬉しいです。えりんこさんのお話の、凛とした青さんも、私大好きです！なかなかうまく表現できなくて困っていますが、また読みに来て下さったら嬉しいです (2014年11月20日 17時) (レス) id: b1673f9bd6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mio
| 作成日時：2014年6月7日 22時
