好機 √ ページ10
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「俺も兄ちゃんの着物がよかった〜!」
俺の着付けを見ていた玄弥が、愚図り始めた。
「今度なァ。」
と、適当にあしらうのも限界で、何度も駄々をこねる玄弥は今、なんでも俺を真似たい時期だ。
正直、今日玄弥がいてくれて助かっている。
玄弥がいなければ、今頃“お姉さん”の名前すら聞けなかっただろうし、着付け中の距離感で完全に照れてどうしようもなくなっていたに違いない。
『玄弥くんがもう少し大きくなったら着ようね?』
Aもそう言って、玄弥をあやす。
『玄弥くんの着物もカッコいいと思うけどなあ!』
Aにそう言われてすっかり機嫌を直した玄弥は、
すっかり上機嫌になって、写真撮影もスムーズに進んだ。
撮影はあっという間に終わり、また3人で着付け室へと戻って、着替えを始めた時だった。
完全にAに懐いてしまった玄弥が突拍子もないことを言い出した。
「俺お姉さん好き!大きくなったら結婚する」
5歳の弟の戯言とは分かりつつも何故か焦る気持ちがAの言葉を急かすように、俺は2人を見つめる。
『玄弥くんが大きくなった時もまだお姉さんのこと好きでいてくれたらね』
…ふぅん、大きくなっても、ねェ。
気持ちが変わらなければ、Aは俺のことだけを見てくれるのか。
その瞬間、今までのモヤモヤした気持ちが何なのか、ハッキリと俺は自覚した。
「やったー!」
有頂天に駆け出した玄弥を追いかけようとしたAの腕を俺は咄嗟に掴んだ。
「じゃ、俺も立候補するわァ」
その言葉、絶対に撤回させねェ。
『実弥くんが20歳になった時、私はもう30歳だよ…?』
驚いた表情で俺を見たAの瞳が、小刻みに揺れる。
10歳差だろうが、俺には関係ねェ。
そん時まで俺が覚えておけば良いってことなら。
…余裕じゃねェか。
俺は真っ直ぐにAを見つめ返した。
「あんたなら全然構わねェけど」
至って真面目だった。
Aにとっては、俺の言葉も、子供の戯言なんだろうけど。
Aは、慌てて取り繕うように『お母さんの所へ戻ろう』と言うと、それからは俺に笑顔を向けてくれなかった。
少しでも真に受けてくれるなら、今はそれだけで良い。
あと10年かけて、
俺が、あんたを迎えに行けば良いんだろ?
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ひよ(プロフ) - 完結おめでとうございます!! 番外編での二人の詳しいその後に、改めてきゅんとしたり、ほう、と至福の溜息をつかせて貰いました。実弥くんと10年もかけた純愛が出来て幸せです。二人ともお疲れ様でした!! (2021年12月10日 22時) (レス) @page43 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 完結おめでとう!そして、お疲れさまでした!待ってたよ♡笑 どちらが書いているのか分からない程の完成度の高いリレーでの合作流石でした!ピュアピュアの可愛い実弥さんに。二人の一途さにキュン…久々に純愛読ませて頂きました!素敵なお話をありがとう😊 (2021年12月10日 21時) (レス) id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
金平糖 - ヤヴァイ←素敵すぎて語彙力が無になりました(^-^) (2021年10月7日 23時) (レス) id: f3f7dadf62 (このIDを非表示/違反報告)
柚葉(プロフ) - なります!!なりますとも!!! (2021年10月6日 21時) (レス) @page31 id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
柚葉(プロフ) - 奏海さん» もう、拭いてもらいました…ムフフ。 (2021年10月3日 23時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏海/羽糸 x他1人 | 作成日時:2021年8月7日 21時