ファインダー越しの10年【不死川実弥】

見様見真似√ ページ19

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出来る限り足掻いてみたかった。



入口のドアを入ると、驚いて振り返ったAと目が合った。


他の店員はいなかった。




「…忘れ物、しちまって」



俺が紛れもない嘘を平然と垂れると、周りを見渡したAが、『確認してくるね』と小走りで姿を消した。


思いつきで吐いた嘘は、あまり良くない嘘だったのかも…


少し経って、受付に戻ってきたAが『一緒にもう一回確認しよう』と俺の腕を優しく引いた瞬間、俺の迷いは消えた。



待合室、着付け室と順に周り、“忘れ物を探すフリ”をする。



『んー…実弥くん、何忘れたの？全然無さそうだよ』



しゃがんで隅々まで探すも、存在しない忘れ物を探しながら困った表情を浮かべたAに、俺は近づいた。



「…わりィ」


今しか無ェんだ。

少しでも長く、記憶に留まるチャンスが。




振り返ったAが、その距離に驚いている隙に、俺はそっとその唇に自分のソレを重ねた。



柔らかい感触と、Aの甘い香りで、頭が真っ白になるのが分かって、すぐに俺は唇を離した。



テレビで見ただけの、正解を知らない見様見真似の行為に、言葉を失ったAが慌てて俺を見た。



余韻も恥じらいも無いほど余裕が無いのに、どこか冷静な自分がいた。



「忘れ物、回収したわァ」



Aの頭をぽん、と撫でるようにして俺はそのまま店を後にした。






店を出た瞬間、一気に緊張が解けて、蘇るAの唇の感触に赤面した。





「これじゃァ俺が忘れらんなくなるだろ…」






俺は振り返らずに車へと走った。






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