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一緒に見ていたはずのママがいない。
そう言って子どもは泣き出したのだ。
泣いてしまった子どもをどう泣き止ませればいいのかわからず、兎にも角にも抱き上げてみる。
「…ママ、どこ行っちゃったんだろうね」
「うぅ、…ぐす、」
「…ママはきみがここにいるの知ってるの？」
「うん、……」
「じゃあお姉ちゃんと一緒に待ってようよ。今から素敵なショーが始まるんだって」
「…ほんと？」
「うん、素敵なんだから、ママもきっと見に来るよ！そしたら会えるよ、ね？」
「……ぅんっ！」
やっと、花が開いたように笑ってくれたその子に嬉しくなる。とはいえかなり無責任な発言だ。少し席を外しただけなのかもしれないが、この子のお母さんも何故離れてしまったんだろう。
そんな思いとは裏腹に、開演のブザーが鳴り響いた。
子どもたちはわくわくした表情でステージを見ている。
わたしも、少し、息を呑んだ。
『それは、かっこいいお姫さまと、そんなお姫さまを愛した王子さまのお話』
「…ぇ、」
『…あなた、だれ？』
『私は…王子だ。きみは？」
『……わたしは、』
『姫は答えられません。自分が姫であるとは到底言えない容姿をしていたからです。
美しい姫さまですが、姫さまは自分のことをかわいいと思ってくれる人はいないと思い込んでいました』
「………」
『…名もなき君でも、愛せるよ。きみは決して、かっこいいだけじゃないんだから。
きみは町の子供に優しい。
きみは美しい声をしていて、たくさんの人を笑顔にしていた。
きみの歌は柔らかく、きみの言葉は子どもたちを包んでいた。
そんなきみだから愛したいと思った。優しいきみを、大切にしたいんだ』
まるで御伽噺。きっと子どもには難しくてわからない。
ああ、女の子なら憧れるかもしれないね。
『きみはきみを愛せているか？優しくて、美しくて、自信がなくても、きみはきみのまま。
どんな風に他人に思われても、きみはきみだよ。
きみの好きなように生きていったらいい』
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作者名：カナ | 作成日時：2021年8月10日 12時
